極道恋事情

一園木蓮

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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)

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「すまない、遅くなった!」
 続いて駆け付けてきたのは紫月の父親だった。名を一之宮飛燕いちのみや ひえんという。道場師範だけあって眼光鋭い研ぎ澄まされた雰囲気の男である。
 時刻は深夜だ。朝の早い彼は既に休んでいたらしく、少々遅れてやってきたのだ。
「刺し傷か……。塩梅はどうだ」
 飛燕が綾乃木に向かって問う。
「出血の量が少し多いですが、臓器には達していません。思ったほど重傷でなくてよかった」
 その言葉にホッと胸を撫で下ろす。
「紫月、お前もご苦労だった。まだ寝てなかったのか」
 飛燕は自身の息子である紫月にも労いの言葉を掛けると、部屋の片隅で手術の様子を気に掛けていた男たちに経緯を尋ねた。
「で、今回はどういった案件だったんだ。遼二坊はどうした」
「若は自分らとは別動隊で出ていらしたんですが、今こちらに向かってくれておりやす」
 若い衆の話では、ある大企業の社長から一人息子があまり好ましくない連中と行動を共にするようになり、困っているとの相談を受けたところから今回の一件が始まったということだった。
「その息子っていうのは今年の春に高校に上がったばかりだったそうなんですが、半年ほど前からあまり素行の良くない連中とツルむようになったんだそうです。夜も家に帰らないことが多くなって、注意しても聞く耳を持たないってんで、その不良グループから抜けさせてくれるようウチに依頼がきたってわけです」
 つまり高校に入るとすぐにそういった仲間たちと付き合うようになったということだろう。だが、調べを進める内に、彼らが単に粋がったり背伸びをしているだけでなく、違法な薬物にまで手を出しているらしいことが分かってきたのだという。ここ最近は特にエスカレートしているようで、夜な夜な廃倉庫にたむろしては皆で深みにはまっていたようだ。
「それで今夜、とりあえずその息子を引っ張って依頼主である父親の元に連れ帰ったわけですが、薬が抜けていなかったのかいきなり父親に斬りかかりまして。依頼主に怪我を負わせちゃならねえってんで橘の兄貴が咄嗟に庇って怪我を負っちまったってわけなんです」
「なるほど。そいつは災難だったな」
 彼らの話では、少年たちに薬を流したルートも既に目星がついていて、組の若頭である鐘崎遼二がそちらを押さえるべく、若い衆らとは別行動で出向いていたとのことだった。

 鐘崎の父親というのは裏社会では名のある始末屋と呼ばれる稼業を営んでいる人物だった。あまり聞き慣れない職種であるが、例えば司法などの関係で、真っ当なやり方では解決できない事案などを依頼主に代わって片付けるというような役割を担っている。
 クライアントは政府要人から大企業の経営者、はたまた警察の上層部に至るまで多岐に渡る。日本国内のみならず香港や台湾などを主とするアジア各国からインドネシアなどの広範囲で活動している凄腕の男だ。多国語を流暢に操り、各地に広い情報網を持っていて、サイバー関係にもすこぶる強い。それだけでも他の追随を許さないプロ中のプロだが、何よりも秀でているのは体術や射撃といった武道の腕前だった。
 元々は一匹狼で始めた稼業だが、経年と共に志を持って集まってきた若い衆らを束ねて、今では強靭な組織を率いる頭となっている男だった。
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