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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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「食う為のもんだ。遠慮する必要はねえ」
いつまで経っても眺めているだけの紫月の横から鐘崎がそう声を掛ける。
「あ、うん……。そんじゃ、せっかくだし戴くとするか」
紫月は取り分け用の皿とナイフをケーキのすぐ側に持ってくると、『――っと、その前に!』と言ってスマートフォンのカメラを立ち上げた。記念に画像として残しておくつもりなのだろう。カシャカシャと数カット撮ったところで綾乃木が横から手を差し出した。
「ほら、カメラよこせ。お前らも一緒に撮ってやる」
鐘崎と紫月にカメラを向けながら、もっとくっ付けという仕草で指示を出す。
「あー、うん。綾さん、ケーキもちゃんと入れてくれよな」
照れ隠しの為か、モゾモゾと遠慮がちにしている紫月の肩をグイと引き寄せて、鐘崎はその大きな掌で頭ごと抱え込むように頬と頬とをぴったりとくっ付けた。
「ほら、笑え」
「え……ッ!? あ、ああ……うん。そんじゃ……チーズ」
ピースサインを繰り出しておどける様は、まさに照れ隠しだ。
「な、綾さんと親父も入ろうよ!」
自分たちだけでは部が悪いのか、紫月は忙しなくカメラを受け取って、今度は三人をシャッターに納めた。
「じゃ、記念撮影も済んだことだし――!」
ナイフを手にしてケーキを切り分けようとした時だった。
「ちょっと待て」
鐘崎は言うと同時に立ち上がると、紫月の隣へとやって来て、彼が手にしているナイフへと自らの手を重ねた。
「……ッ!? ンだよ、てめ……いきなし」
「お前一人じゃ上手く切れねえといけねえからな。手伝ってやる」
「はぁ!? ンなん……ダイジョブだって……のに」
これではまるで結婚披露宴のケーキ入刀ではないか――。
「し……信用されてねえなぁ、俺」
図らずも真っ赤に染まってしまった頬の熱をごまかすことに必死な紫月の手は、フルフルと震えて定まらない。
「ほら見ろ。お前だけじゃ危なっかしいじゃねえか」
鐘崎は自慢げに笑うと、紫月の手を包み込んだままグイとケーキにナイフを入れてしまった。
「うわ……ッ! 勿体ねえ……」
「何が勿体ねえだ。切らなきゃいつまで経っても食えねえだろうが」
「そりゃま、そうだけどよぉ……」
「ほら、皿をよこせ」
「あ、うん。俺がやるって」
「落とすなよ?」
「ダイジョブだってー! ちっとは信用しろっての」
何とも仲睦まじいことである。その様子をこっそりとカメラに納めた綾乃木は、やれやれといった表情で隣の飛燕と目配せし合ったのだった。
二人の仲については綾乃木のみならず、父親の飛燕も薄々気が付いているのだ。男同士ということが気に掛かってどちらからとも言い出せないわけか、いつまでも想いを告げ合えずにいる二人を焦ったいと思いつつも、一方では自分たちさえ良ければと突っ走ることなく、常識や周囲の目を考えることができる人間に育ってくれたことが嬉しくもある。だが、やはり互いに好き合っているのなら周りに気を遣い過ぎずに本人たちの幸せを大切にして欲しいと望むのも本当のところなのだ。飛燕としても複雑な思いながら、いつかこの二人にとって本当に手助けが必要となった時が来たならば迷わずに背中を押してやりたい、今はそんな気持ちで温かく見守りたいと思っているのだった。
いつまで経っても眺めているだけの紫月の横から鐘崎がそう声を掛ける。
「あ、うん……。そんじゃ、せっかくだし戴くとするか」
紫月は取り分け用の皿とナイフをケーキのすぐ側に持ってくると、『――っと、その前に!』と言ってスマートフォンのカメラを立ち上げた。記念に画像として残しておくつもりなのだろう。カシャカシャと数カット撮ったところで綾乃木が横から手を差し出した。
「ほら、カメラよこせ。お前らも一緒に撮ってやる」
鐘崎と紫月にカメラを向けながら、もっとくっ付けという仕草で指示を出す。
「あー、うん。綾さん、ケーキもちゃんと入れてくれよな」
照れ隠しの為か、モゾモゾと遠慮がちにしている紫月の肩をグイと引き寄せて、鐘崎はその大きな掌で頭ごと抱え込むように頬と頬とをぴったりとくっ付けた。
「ほら、笑え」
「え……ッ!? あ、ああ……うん。そんじゃ……チーズ」
ピースサインを繰り出しておどける様は、まさに照れ隠しだ。
「な、綾さんと親父も入ろうよ!」
自分たちだけでは部が悪いのか、紫月は忙しなくカメラを受け取って、今度は三人をシャッターに納めた。
「じゃ、記念撮影も済んだことだし――!」
ナイフを手にしてケーキを切り分けようとした時だった。
「ちょっと待て」
鐘崎は言うと同時に立ち上がると、紫月の隣へとやって来て、彼が手にしているナイフへと自らの手を重ねた。
「……ッ!? ンだよ、てめ……いきなし」
「お前一人じゃ上手く切れねえといけねえからな。手伝ってやる」
「はぁ!? ンなん……ダイジョブだって……のに」
これではまるで結婚披露宴のケーキ入刀ではないか――。
「し……信用されてねえなぁ、俺」
図らずも真っ赤に染まってしまった頬の熱をごまかすことに必死な紫月の手は、フルフルと震えて定まらない。
「ほら見ろ。お前だけじゃ危なっかしいじゃねえか」
鐘崎は自慢げに笑うと、紫月の手を包み込んだままグイとケーキにナイフを入れてしまった。
「うわ……ッ! 勿体ねえ……」
「何が勿体ねえだ。切らなきゃいつまで経っても食えねえだろうが」
「そりゃま、そうだけどよぉ……」
「ほら、皿をよこせ」
「あ、うん。俺がやるって」
「落とすなよ?」
「ダイジョブだってー! ちっとは信用しろっての」
何とも仲睦まじいことである。その様子をこっそりとカメラに納めた綾乃木は、やれやれといった表情で隣の飛燕と目配せし合ったのだった。
二人の仲については綾乃木のみならず、父親の飛燕も薄々気が付いているのだ。男同士ということが気に掛かってどちらからとも言い出せないわけか、いつまでも想いを告げ合えずにいる二人を焦ったいと思いつつも、一方では自分たちさえ良ければと突っ走ることなく、常識や周囲の目を考えることができる人間に育ってくれたことが嬉しくもある。だが、やはり互いに好き合っているのなら周りに気を遣い過ぎずに本人たちの幸せを大切にして欲しいと望むのも本当のところなのだ。飛燕としても複雑な思いながら、いつかこの二人にとって本当に手助けが必要となった時が来たならば迷わずに背中を押してやりたい、今はそんな気持ちで温かく見守りたいと思っているのだった。
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