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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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「ご実家のことは承知している。御祖父様は春日野朧月殿ですな。私も若かりし頃に一度お目に掛かったことがあるが、古き佳き任侠の心をお持ちの立派な御方だった」
「――恐縮です」
「確か……ご尊父はお医者様でしたな?」
「はい。本来であれば父が継ぐべきところでございましたが、母と共に医者の道を目指したいという父の思いを尊重してもらったと聞いております」
「なるほど、それでキミが後継を。では今後はご実家に戻られるおつもりかな?」
「いえ、まあいずれはと思っておるのですが――。私が継ぐにはまだ経験が足りないと心得ております。道内の組長がこんなことになってしまった以上、他所様へ移って勉強させていただこうと思っております」
その心意気を聞いただけでも堅実なことが窺われる。すぐにも一家の長となれるだろうに、まだ勉強を積もうとしている姿勢も感服させられるところだ。見たところ年齢的にも鐘崎や紫月らと同年代といったところか。
僚一は、ますますこの春日野という男が気に入ってしまった。
「僭越ながら窺うが――もしもよろしければうちに来てはくれまいか? もちろんキミにもご都合があるだろうから無理にとは言わんが」
それを聞いて春日野は驚いたように鐘崎親子を見上げた。
「私が……こちら様にですか?」
「ああ。ご一考いただけると幸甚だ」
確かに春日野は道内組にいたくらいだから、その上部団体との縁を考えれば彼の一存ですぐに系列を外れることはできないかも知れない。僚一もそこは重々承知の上なので、彼の意向を尊重するべくそう訊いたのだ。
だが春日野はこの場ですぐに快諾の旨を申し出た。
「勿体ないお話ながら、たいへん有り難く存じます。私などでよろしければ、是非とも鐘崎様の下で勉強させていただきたく存じます」
また一度、土下座の勢いで深々と首を垂れてそう言った。
「そうか。嬉しい返事を聞けて何よりだ。ではキミの立場を悪くしないよう、上の方には私からもキミをうちに預かりたい旨伝えさせてもらいたいと思うが、それで構わないか?」
「――何から何までご厚情痛み入ります。こんなに光栄なことはございません!」
春日野は言うと、どんなことでも一生懸命務めさせていただきますと感激の様子で声を震わせた。
こうして春日野が加わることとなり、鐘崎組もまた気持ちも新たにより一層強靭な組として新年を歩み出すこととなったのだった。
その二週間後、春日野が属していた組の上層部にも話を通した僚一は、彼のお披露目として宴席を設けることにした。その場で鐘崎と紫月の仲についても内々ではあるが組員たちに公表され、二人の正式な披露宴に向けての準備が進められることになっていった。
「時期は春節が過ぎたあたりでどうだ? 香港の周ファミリーにもその頃なら来てもらいやすいだろう」
汐留の周はもちろんのこと、僚一とも付き合いの深い周の親や兄たちにも声を掛けるつもりなのだ。
鐘崎と紫月の二人は恐縮しつつも、色々と考えてくれる僚一に心から感謝を述べたのだった。
◇ ◇ ◇
「――恐縮です」
「確か……ご尊父はお医者様でしたな?」
「はい。本来であれば父が継ぐべきところでございましたが、母と共に医者の道を目指したいという父の思いを尊重してもらったと聞いております」
「なるほど、それでキミが後継を。では今後はご実家に戻られるおつもりかな?」
「いえ、まあいずれはと思っておるのですが――。私が継ぐにはまだ経験が足りないと心得ております。道内の組長がこんなことになってしまった以上、他所様へ移って勉強させていただこうと思っております」
その心意気を聞いただけでも堅実なことが窺われる。すぐにも一家の長となれるだろうに、まだ勉強を積もうとしている姿勢も感服させられるところだ。見たところ年齢的にも鐘崎や紫月らと同年代といったところか。
僚一は、ますますこの春日野という男が気に入ってしまった。
「僭越ながら窺うが――もしもよろしければうちに来てはくれまいか? もちろんキミにもご都合があるだろうから無理にとは言わんが」
それを聞いて春日野は驚いたように鐘崎親子を見上げた。
「私が……こちら様にですか?」
「ああ。ご一考いただけると幸甚だ」
確かに春日野は道内組にいたくらいだから、その上部団体との縁を考えれば彼の一存ですぐに系列を外れることはできないかも知れない。僚一もそこは重々承知の上なので、彼の意向を尊重するべくそう訊いたのだ。
だが春日野はこの場ですぐに快諾の旨を申し出た。
「勿体ないお話ながら、たいへん有り難く存じます。私などでよろしければ、是非とも鐘崎様の下で勉強させていただきたく存じます」
また一度、土下座の勢いで深々と首を垂れてそう言った。
「そうか。嬉しい返事を聞けて何よりだ。ではキミの立場を悪くしないよう、上の方には私からもキミをうちに預かりたい旨伝えさせてもらいたいと思うが、それで構わないか?」
「――何から何までご厚情痛み入ります。こんなに光栄なことはございません!」
春日野は言うと、どんなことでも一生懸命務めさせていただきますと感激の様子で声を震わせた。
こうして春日野が加わることとなり、鐘崎組もまた気持ちも新たにより一層強靭な組として新年を歩み出すこととなったのだった。
その二週間後、春日野が属していた組の上層部にも話を通した僚一は、彼のお披露目として宴席を設けることにした。その場で鐘崎と紫月の仲についても内々ではあるが組員たちに公表され、二人の正式な披露宴に向けての準備が進められることになっていった。
「時期は春節が過ぎたあたりでどうだ? 香港の周ファミリーにもその頃なら来てもらいやすいだろう」
汐留の周はもちろんのこと、僚一とも付き合いの深い周の親や兄たちにも声を掛けるつもりなのだ。
鐘崎と紫月の二人は恐縮しつつも、色々と考えてくれる僚一に心から感謝を述べたのだった。
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