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告げられないほどに深い愛(極道若頭編)
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年が明けて初春を迎えると、鐘崎は香港での仕事を終えて帰国した父親に紫月とのことを打ち明けた。
父の僚一も息子たちが想い合っていることは前々から知っていたようで、紫月の父親の飛燕同様に時がくるのを温かく見守っていたようだ。
組の連中や親しい周囲に仲を公表したいという鐘崎の思いを受けて、近くささやかながら宴席を設けることも決まっていった。二人は男同士故、世間一般的にいうところの結婚という形ではないし、籍などについては当座はそのままということにして、とりあえずは鐘崎と紫月が伴侶として共に人生を歩んでいきたいという思いを皆に伝えるということで話は決まった。永い間秘めてきた想いが実を結ぶ、まさに春の訪れであった。
一方、鐘崎に悪事を仕掛けた道内組の行く末についても、新たな報告が上がってきていた。
道内は元々は広域指定暴力団の三次団体をおさめていたのだが、それらに属さない鐘崎組に手を出したということで、上から厳しい沙汰を言い渡される羽目となった。表向きは同系列の組の傘下に置かれることとなり、つまりは三次から四次団体に降格という形ではあるが、実際のところは解散も同然ということのようだ。
そうした沙汰を受けて、組員らも道内の下を離れ、他所へと鞍替えする者も多数出たらしい。
道内組長本人は完全に失脚した形となり、構成員らも散り散りになって、もはや組としての体をなさない状況に追い込まれていったとのことだった。
そんな中、道内組で幹部を張っていた春日野という男のみが先刻の無礼を詫びに鐘崎組へとやってきた。彼はあの時、紫月の言葉を受けて真っ先に非を認めようとした男である。たった一人で供もつけずに詫びを入れに出向いてきたのだ。
鐘崎親子の目の前で、春日野は土下座をして謝罪の言葉を口にした。
「この度は鐘崎様にはたいへん申し訳ないことを致しました。この通り、お詫び申し上げます」
既に組は無いに等しい状態であるにもかかわらず、こうして頭を下げに来たことに、鐘崎親子は心動かされるものを感じたようだ。
「あんたの気持ちは分かった。いいから頭を上げてくれ」
長である僚一に言われて、春日野はようやくと顔を上げた。
「それで、この先のことは決まっておられるのか?」
まさか道内の下に残るつもりでもあるまいにと思うわけだが、律儀にもたった一人でけじめをつけようとしている姿勢には感服させられるところだ。僚一は、この男さえよければ自らの組に預かり受けたいと思ったほどだった。
「実は私の曽祖父も祖父も任侠の道に生きる者でして。親父は全く別の生き方を選びましたので、祖父が亡くなればその意思を継ぐ者はおりません。いずれは私がと思い、道内組長のところで勉強させていただいておったのですが」
春日野の実家は規模は小さいながらも代々極道として組を構えてきたのだそうだ。むろんのこと、裏社会の事情に詳しい僚一だ、春日野一家の存在は既に知っていた。
父の僚一も息子たちが想い合っていることは前々から知っていたようで、紫月の父親の飛燕同様に時がくるのを温かく見守っていたようだ。
組の連中や親しい周囲に仲を公表したいという鐘崎の思いを受けて、近くささやかながら宴席を設けることも決まっていった。二人は男同士故、世間一般的にいうところの結婚という形ではないし、籍などについては当座はそのままということにして、とりあえずは鐘崎と紫月が伴侶として共に人生を歩んでいきたいという思いを皆に伝えるということで話は決まった。永い間秘めてきた想いが実を結ぶ、まさに春の訪れであった。
一方、鐘崎に悪事を仕掛けた道内組の行く末についても、新たな報告が上がってきていた。
道内は元々は広域指定暴力団の三次団体をおさめていたのだが、それらに属さない鐘崎組に手を出したということで、上から厳しい沙汰を言い渡される羽目となった。表向きは同系列の組の傘下に置かれることとなり、つまりは三次から四次団体に降格という形ではあるが、実際のところは解散も同然ということのようだ。
そうした沙汰を受けて、組員らも道内の下を離れ、他所へと鞍替えする者も多数出たらしい。
道内組長本人は完全に失脚した形となり、構成員らも散り散りになって、もはや組としての体をなさない状況に追い込まれていったとのことだった。
そんな中、道内組で幹部を張っていた春日野という男のみが先刻の無礼を詫びに鐘崎組へとやってきた。彼はあの時、紫月の言葉を受けて真っ先に非を認めようとした男である。たった一人で供もつけずに詫びを入れに出向いてきたのだ。
鐘崎親子の目の前で、春日野は土下座をして謝罪の言葉を口にした。
「この度は鐘崎様にはたいへん申し訳ないことを致しました。この通り、お詫び申し上げます」
既に組は無いに等しい状態であるにもかかわらず、こうして頭を下げに来たことに、鐘崎親子は心動かされるものを感じたようだ。
「あんたの気持ちは分かった。いいから頭を上げてくれ」
長である僚一に言われて、春日野はようやくと顔を上げた。
「それで、この先のことは決まっておられるのか?」
まさか道内の下に残るつもりでもあるまいにと思うわけだが、律儀にもたった一人でけじめをつけようとしている姿勢には感服させられるところだ。僚一は、この男さえよければ自らの組に預かり受けたいと思ったほどだった。
「実は私の曽祖父も祖父も任侠の道に生きる者でして。親父は全く別の生き方を選びましたので、祖父が亡くなればその意思を継ぐ者はおりません。いずれは私がと思い、道内組長のところで勉強させていただいておったのですが」
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