110 / 1,212
香港蜜月
4
しおりを挟む
その瞬間、冰の双眸にみるみるとうるみ出した涙に、周と父親の隼は慌てたようにして瞳を見開いてしまった。
「おいおい、どうした。泣くヤツがあるか」
周も一緒になってその顔を覗き込む。
「ご、ごめ……すみませ……! 白龍と初めて会った時のことを思い出してしまって……本当にすみません!」
そうなのだ。父親の隼の掛けてくれた言葉や仕草が周とそっくりで、感激ともなんとも言いようのない思いが涙という形になってあふれ出してしまったのだ。
初めて周と出会った幼いあの日、周も同じように屈みながら顔を覗き込んでくれた。大人になって汐留の社を訪れた際にも、『周焔だ。よく訪ねてくれた』と迎え入れてくれたし、『そう畏まることはねえ』と言って緊張を解してくれようとした。今まさにそんな彼とよく似た面立ちの隼にまったく同じ言葉を掛けてもらえたことが、その時の感動と重なって思えたのだ。冰は改めて周という唯一無二の恋人と共にいられる幸せを痛感したのだった。
取り留めのないながらもその思いを懸命に告げると、隼も周も、そして周りの皆も温かい気持ちに包まれたのだった。
そんな折だ。
「あなた! もうそろそろいいかしらー?」
待ち切れないとばかりに柱の影から顔を出したのは、周の継母と兄夫婦だった。どうやら彼らは隼によって少しの間、対面を待つように言われていたらしい。一度に全員で顔を出せば、初めて訪れる冰を緊張させてしまうかも知れない。それでは気の毒かろうと、順々に自己紹介することに決めていたようだ。
「白龍! 会いたかったわ!」
継母は待ち兼ねたように駆け寄ると、小さな子供を抱きしめるように周へとハグをした。と同時に、
「あなたが冰ね? まあ、なんて可愛いのかしら!」
間髪入れずに今度は冰を抱きしめて、周にしたのと同じようにハグをしてよこした。
「旦那様がね、いきなり皆で出て行ったら冰が面食らうといけないと言ってね。私たちは待たされていたのよー」
初対面とは思えない朗らかな歓迎に、冰の緊張も一気に解されていく。
「私は香蘭、焔の母よ。そしてこちらが兄の風とお嫁さんの美紅ちゃん! 皆、あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ」
言葉通りに瞳をキラキラと輝かせて言う。香蘭の名のごとく、見惚れるほどに美しく、そして朗らかな彼女に、冰は周から聞き及んでいたままの印象を受けた。
「はじめまして。雪吹冰です! お目に掛かれて光栄です!」
隼の時とは違い徐々に緊張も解れてきたし、また、彼女の明るさにつられるようにして今度は冰も上がらずに挨拶をすることができたのだった。
「おいおい、どうした。泣くヤツがあるか」
周も一緒になってその顔を覗き込む。
「ご、ごめ……すみませ……! 白龍と初めて会った時のことを思い出してしまって……本当にすみません!」
そうなのだ。父親の隼の掛けてくれた言葉や仕草が周とそっくりで、感激ともなんとも言いようのない思いが涙という形になってあふれ出してしまったのだ。
初めて周と出会った幼いあの日、周も同じように屈みながら顔を覗き込んでくれた。大人になって汐留の社を訪れた際にも、『周焔だ。よく訪ねてくれた』と迎え入れてくれたし、『そう畏まることはねえ』と言って緊張を解してくれようとした。今まさにそんな彼とよく似た面立ちの隼にまったく同じ言葉を掛けてもらえたことが、その時の感動と重なって思えたのだ。冰は改めて周という唯一無二の恋人と共にいられる幸せを痛感したのだった。
取り留めのないながらもその思いを懸命に告げると、隼も周も、そして周りの皆も温かい気持ちに包まれたのだった。
そんな折だ。
「あなた! もうそろそろいいかしらー?」
待ち切れないとばかりに柱の影から顔を出したのは、周の継母と兄夫婦だった。どうやら彼らは隼によって少しの間、対面を待つように言われていたらしい。一度に全員で顔を出せば、初めて訪れる冰を緊張させてしまうかも知れない。それでは気の毒かろうと、順々に自己紹介することに決めていたようだ。
「白龍! 会いたかったわ!」
継母は待ち兼ねたように駆け寄ると、小さな子供を抱きしめるように周へとハグをした。と同時に、
「あなたが冰ね? まあ、なんて可愛いのかしら!」
間髪入れずに今度は冰を抱きしめて、周にしたのと同じようにハグをしてよこした。
「旦那様がね、いきなり皆で出て行ったら冰が面食らうといけないと言ってね。私たちは待たされていたのよー」
初対面とは思えない朗らかな歓迎に、冰の緊張も一気に解されていく。
「私は香蘭、焔の母よ。そしてこちらが兄の風とお嫁さんの美紅ちゃん! 皆、あなたに会えるのを楽しみにしていたのよ」
言葉通りに瞳をキラキラと輝かせて言う。香蘭の名のごとく、見惚れるほどに美しく、そして朗らかな彼女に、冰は周から聞き及んでいたままの印象を受けた。
「はじめまして。雪吹冰です! お目に掛かれて光栄です!」
隼の時とは違い徐々に緊張も解れてきたし、また、彼女の明るさにつられるようにして今度は冰も上がらずに挨拶をすることができたのだった。
33
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる