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香港蜜月
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香港に到着すると、一同は揃って周の実家へと向かった。
空港には既に迎えのワゴン車が来ており、山道を登って街全体を見渡せる邸を目指す。周の父親である隼の私邸は、この一軒家の他にも香港島と九龍にある高楼のビルなどにいくつもあって、仕事の都合で住処を使い分けているといったところである。今日向かうのはそれらの中でも本宅とされる邸であった。
「うわぁ……すごい!」
車を降りると同時に、冰などはその豪華さに瞳を大きく見開いて溜め息を連発してしまった。
石とアイアンを用いた重厚な造りの門から玄関ロビーまで広大な庭園があり、歩けば数分とかかりそうだ。緑豊かな庭には季節の樹木や花々が植えられていて美しい。建物の外観は一見中華ふうだが、一歩中に入ると西洋と東洋の際立った建築が融合されているような造りに目を見張らされる。香港マフィアの頭領というからにはそれなりの想像はしていたものの、実際に目にすれば足がすくんでしまいそうなくらいの素晴らしい邸に呆然とさせられてしまった冰である。
鐘崎と紫月は以前にも幾度か訪れているわけだが、そんな彼らでも来るたびにうっとりとさせられるくらいだった。
「よく来てくれた。皆、元気そうで何よりだ」
出迎えてくれたのはこの邸の主、香港の裏社会を仕切るマフィアの頭領だ。周の父親である周隼だった。
漆黒のスーツは繻子だろう、織物の所々が光の加減でキラキラと品の良く輝いている。重々しく厳かな雰囲気ながら、端正な顔立ちに似合いの長身は、周とほぼ同じくらいだろうか。まるで映画の中から抜け出してきたような美麗さに、冰はポカンと大口を開いたまま固まってしまった。
「白龍、お前さんも達者そうで何よりだ。いつもながらの援助にも痛み入る」
周が日本で起業し、その稼ぎをファミリーの資金源の一部として貢献していることへの感謝と労いの言葉に、周は恐縮しながら丁寧に頭を下げた。
「いえ、私の方こそいつも心に掛けていただき有り難く存じております。父上もお元気そうで安心致しました」
「ああ、お陰様でな。して、そちらが冰君かな?」
真っ直ぐに視線をくれられて、冰は機械仕掛けの人形のようにビシッと背筋を伸ばした。
「は、は……はじめまして! ふ、雪吹冰でございます! ふ、ふつつかな者でございます!」
まるで機械がギギギッと音を立てるごとく勢いで腰を九十度に折って自己紹介した冰に、周はむろんのこと側にいた一同は思わず笑みを誘われてしまったほどだった。
「おい、冰……。そんなに緊張することはねえ。いいから顔を上げろ」
やれやれと苦笑しながら周が肩に手を添える。そんな二人の様子に父親の隼も瞳をゆるめてうなずいている。
「焔の言う通りだ。そう畏まることはない。楽にしてくれ」
緊張も緊張、ド緊張といった様子がモロ見えのおぼつかない挨拶だが、隼にも冰の性質の良さが感じられたのだろう。そんな彼を愛しそうにかばう息子の様子を見ても、普段の彼らの仲が窺い知れるというものだ。
「周隼だ。焔から話を聞いていたのでね。早くキミに会いたいと楽しみにしていたんだ」
そう言って、未だ頭を上げられずにいる冰の目の前へと歩み寄り、その顔を覗き込むようにクッと腰を屈めて微笑んでみせた。
空港には既に迎えのワゴン車が来ており、山道を登って街全体を見渡せる邸を目指す。周の父親である隼の私邸は、この一軒家の他にも香港島と九龍にある高楼のビルなどにいくつもあって、仕事の都合で住処を使い分けているといったところである。今日向かうのはそれらの中でも本宅とされる邸であった。
「うわぁ……すごい!」
車を降りると同時に、冰などはその豪華さに瞳を大きく見開いて溜め息を連発してしまった。
石とアイアンを用いた重厚な造りの門から玄関ロビーまで広大な庭園があり、歩けば数分とかかりそうだ。緑豊かな庭には季節の樹木や花々が植えられていて美しい。建物の外観は一見中華ふうだが、一歩中に入ると西洋と東洋の際立った建築が融合されているような造りに目を見張らされる。香港マフィアの頭領というからにはそれなりの想像はしていたものの、実際に目にすれば足がすくんでしまいそうなくらいの素晴らしい邸に呆然とさせられてしまった冰である。
鐘崎と紫月は以前にも幾度か訪れているわけだが、そんな彼らでも来るたびにうっとりとさせられるくらいだった。
「よく来てくれた。皆、元気そうで何よりだ」
出迎えてくれたのはこの邸の主、香港の裏社会を仕切るマフィアの頭領だ。周の父親である周隼だった。
漆黒のスーツは繻子だろう、織物の所々が光の加減でキラキラと品の良く輝いている。重々しく厳かな雰囲気ながら、端正な顔立ちに似合いの長身は、周とほぼ同じくらいだろうか。まるで映画の中から抜け出してきたような美麗さに、冰はポカンと大口を開いたまま固まってしまった。
「白龍、お前さんも達者そうで何よりだ。いつもながらの援助にも痛み入る」
周が日本で起業し、その稼ぎをファミリーの資金源の一部として貢献していることへの感謝と労いの言葉に、周は恐縮しながら丁寧に頭を下げた。
「いえ、私の方こそいつも心に掛けていただき有り難く存じております。父上もお元気そうで安心致しました」
「ああ、お陰様でな。して、そちらが冰君かな?」
真っ直ぐに視線をくれられて、冰は機械仕掛けの人形のようにビシッと背筋を伸ばした。
「は、は……はじめまして! ふ、雪吹冰でございます! ふ、ふつつかな者でございます!」
まるで機械がギギギッと音を立てるごとく勢いで腰を九十度に折って自己紹介した冰に、周はむろんのこと側にいた一同は思わず笑みを誘われてしまったほどだった。
「おい、冰……。そんなに緊張することはねえ。いいから顔を上げろ」
やれやれと苦笑しながら周が肩に手を添える。そんな二人の様子に父親の隼も瞳をゆるめてうなずいている。
「焔の言う通りだ。そう畏まることはない。楽にしてくれ」
緊張も緊張、ド緊張といった様子がモロ見えのおぼつかない挨拶だが、隼にも冰の性質の良さが感じられたのだろう。そんな彼を愛しそうにかばう息子の様子を見ても、普段の彼らの仲が窺い知れるというものだ。
「周隼だ。焔から話を聞いていたのでね。早くキミに会いたいと楽しみにしていたんだ」
そう言って、未だ頭を上げられずにいる冰の目の前へと歩み寄り、その顔を覗き込むようにクッと腰を屈めて微笑んでみせた。
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