極道恋事情

一園木蓮

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香港蜜月

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 その夜、一同は周の父親が経営するカジノでのイベントへと向かった。
 今夜は四人とも黒のタキシードである。先刻買い揃えたそれぞれのカフスボタンをしっかり身に付けて出掛けた。もちろん、真田と源次郎も同行している。
「白龍……いつものスーツの時もカッコイイけど、今日はまためちゃめちゃ素敵だね……」
 思わず感じたままが口をついて出てしまった冰は、言ってしまった後で真っ赤に頬を染める。
「なんだ、改まって。お前だってすごく良く似合ってるぜ、そのタキシード!」
 愛する冰に褒められて機嫌も上々の周は、ニヒルに口角を上げて恋人の肩を抱き寄せる。
 世辞ではないが、本当に周という男はこうしたクラシカルな装いがよくよくサマになる男前ぶりなのだ。欲目を抜きにしても心底見惚れる格好良さだと、冰は高鳴り出す心拍数を抑えるのがたいへんなくらいであった。
 ホテルの玄関前には昨日までのワゴン車とは別の高級車が待っていて、それにも驚かされた。豪華も豪華、黒塗りのリムジンである。香港在住時には街中に走っているのを目にしたことはあるが、乗るのは初めてという冰には、何もかもが夢の世界である。鐘崎と紫月、真田と源次郎を乗せる為のリムジンもそれぞれ別々に三台が連なっていて、その光景を見ただけで膝がガクガクと笑い出してしまいそうだった。
 車は滑るようにホテルを出発し、カジノに到着するなり、冰はまた感嘆の声を上げながら瞳を見開いてしまった。
「うはぁ……すごい……!」
 ほんの数ヶ月前までは冰とて黄老人の後を継いでディーラーをしていたわけだから、カジノ自体は日常見慣れていたはずの場所なのだが、ここまで広くゴージャスなのは初めてである。
 天井は建物の五、六階くらいありそうな吹き抜けになっていて、部屋全体を見渡せるように螺旋階段状の広い廊下が延々と続いている。照明器具も大型のシャンデリアがいくつもあって、そのデザインだけでも芸術鑑賞といえるくらいの豪華なものだ。
 ディーラーたちも紳士淑女といった、粋で上品な制服に身を包み、冰がいたカジノとは別世界といえるほどに、とにかく見るものすべてが豪華絢爛だった。
「ここは親父が持ってるカジノの中でも陸の上では一番大きな店でな。特に今夜は春節のイベントってことで、客も各国から来ているし、普段よりも賑やかだぜ」
 周がそう説明する。
「陸の上ではっていうことは……他にもどこかにあるの?」
 例えばお隣のマカオなどにも店を展開しているのかと思って冰が驚き顔で訊く。
「マカオにも息の掛かった店はあるが、直営の中ではここの次に規模がでかいのはカジノ船だな」
「カジノ船……!?」
「ああ。湾内をクルーズしながらカジノも楽しめるって感覚なんで、あっちは普段でもかなりの賑わいだな」
「ふわぁ……」
 まさに言葉にならない。この世界に身を置いていた冰でも溜め息の連続なのだから、真田や源次郎などはそれこそ物見遊山顔で少年のように瞳を輝かせていた。



◇    ◇    ◇


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