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香港蜜月
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普段はやさしい黄老人が厳しくも真剣そのものの真顔で、じっと視線を合わせながら放った言葉だ。それは狙った場所へルーレットのボールを落とすという投げ方だった。
どんなに鍛錬を積んだとて、万に一つと思うようにはいかない技だ。それこそ血の滲むような努力をしても、近い位置に落とすことができれば万々歳というくらいの難しいものだという。特に昨今はルーレットの板そのものが昔とは違った作りに改良されてきている傾向にある為、ことさらに難しくなっているということだった。
当の黄老人でさえ確実に決められることはそうそうなかったというが、とにかく来る日も来る日も嫌になるほど練習させられたものだ。その苦行の中で、磁気の仕込まれたルーレットのボールを磁気に逆らって枠から外すという方法も教わったのだ。つまり、イカサマを仕掛けられた際の対処法である。
老人がしつこいほどに訓練を積ませた”ボールを狙った位置に落とす”という修行は、実はそれ自体が目的ではなく、ボールに細工をされた時に、手にした感覚でそれを見破れるようにするのが本来の目的だったというのを後になってから聞かされたものだ。鍛錬の末、冰がルーレットの技でお墨付きをもらえた時のことだった。
普通のディーラーならばボールを握っただけでは気が付かないほどの、ごくごくわずかな感覚の差を感じ取ることができるようになって初めて一人前だと老人が認めてくれた日のことを昨日のように思い出す。
「ね、白龍……ディーラーを交代してもらうことはできる?」
冰は意を決したように周へと耳打ちをした。
「――交代って、どういうことだ」
「ん、もしできるなら俺に投げさせてもらえないかなって思って……」
「……まさかお前がフロアに出るというのか?」
「うん……。磁気の仕込まれたボールならそれを回避する方法がないわけじゃないんだ」
「お前にはそれができるっていうのか?」
「前にじいちゃんに教わったんだ。この強さの磁気なら多分外せる。このままだとあのイカサマ師にいいように持っていかれる。それに、ずっと賭けを中止にするわけにはいかないだろ?」
戻って来たディーラーの困惑ぶりを見る限り、彼にはボールに細工をされていることにも気付いていないのが窺える。そんな状態で続けても、相手の思うように負け続けるのは目に見えている。かといって、今になって去年まで使用していたボールに変更すれば、そのデザインの違いからすぐにイカサマ師たちに気付かれてしまうだろう。だったら自分が投げて外すしかないと冰は思ったのだ。
周はその申し出にも驚いたが、それ以上に冰の表情の方に驚かされていた。いつもの恥ずかしがり屋で幼さの残る印象とはまるで違って感じられたからだ。掌の上でボールの感覚を確かめている顔つきは、大人びていて別人のようだ。何よりも淡々としていて感情が窺えないのだ。
どんなに鍛錬を積んだとて、万に一つと思うようにはいかない技だ。それこそ血の滲むような努力をしても、近い位置に落とすことができれば万々歳というくらいの難しいものだという。特に昨今はルーレットの板そのものが昔とは違った作りに改良されてきている傾向にある為、ことさらに難しくなっているということだった。
当の黄老人でさえ確実に決められることはそうそうなかったというが、とにかく来る日も来る日も嫌になるほど練習させられたものだ。その苦行の中で、磁気の仕込まれたルーレットのボールを磁気に逆らって枠から外すという方法も教わったのだ。つまり、イカサマを仕掛けられた際の対処法である。
老人がしつこいほどに訓練を積ませた”ボールを狙った位置に落とす”という修行は、実はそれ自体が目的ではなく、ボールに細工をされた時に、手にした感覚でそれを見破れるようにするのが本来の目的だったというのを後になってから聞かされたものだ。鍛錬の末、冰がルーレットの技でお墨付きをもらえた時のことだった。
普通のディーラーならばボールを握っただけでは気が付かないほどの、ごくごくわずかな感覚の差を感じ取ることができるようになって初めて一人前だと老人が認めてくれた日のことを昨日のように思い出す。
「ね、白龍……ディーラーを交代してもらうことはできる?」
冰は意を決したように周へと耳打ちをした。
「――交代って、どういうことだ」
「ん、もしできるなら俺に投げさせてもらえないかなって思って……」
「……まさかお前がフロアに出るというのか?」
「うん……。磁気の仕込まれたボールならそれを回避する方法がないわけじゃないんだ」
「お前にはそれができるっていうのか?」
「前にじいちゃんに教わったんだ。この強さの磁気なら多分外せる。このままだとあのイカサマ師にいいように持っていかれる。それに、ずっと賭けを中止にするわけにはいかないだろ?」
戻って来たディーラーの困惑ぶりを見る限り、彼にはボールに細工をされていることにも気付いていないのが窺える。そんな状態で続けても、相手の思うように負け続けるのは目に見えている。かといって、今になって去年まで使用していたボールに変更すれば、そのデザインの違いからすぐにイカサマ師たちに気付かれてしまうだろう。だったら自分が投げて外すしかないと冰は思ったのだ。
周はその申し出にも驚いたが、それ以上に冰の表情の方に驚かされていた。いつもの恥ずかしがり屋で幼さの残る印象とはまるで違って感じられたからだ。掌の上でボールの感覚を確かめている顔つきは、大人びていて別人のようだ。何よりも淡々としていて感情が窺えないのだ。
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