極道恋事情

一園木蓮

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香港蜜月

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 カジノのディーラーはどんなに優勢であろうと、また逆にどんな窮地に追い込まれていようと、決して感情を見せてはならないというのは基本中の基本というが、今の冰はまさに何を考えているのか分からないポーカーフェイスそのものだ。確実にボールを外せる自信があるのか、はたまた”もしかしたら外せるかも知れない”と若干の迷いがあるのか、表情を見ただけではまったく読み取れないのだ。
「冰……? お前……」
 それは周でさえも初めて見る、ディーラーとしての一人のプロの顔だった。
「分かった……。親父に話そう」
 周はうなずくと、早速にそのことを父親の隼へと告げた。

 報告を受けて、隼と風が冰の元へとやって来た。
「冰、本当にいいのか?」
「お父様、お兄様。はい、少々頼りないかも知れませんが、お役に立てるかも知れません。……もしも他に策がないようでしたら私にやらせてはいただけないでしょうか?」
「それは……もちろん我々にとっては有り難い申し出だが……」
 万が一にも冰に危険が及ばないとも限らない。上手く外せたとして、大金が賭かっている故、イカサマ師らが逆上した場合、どういう行動に出るかは予測がつかないからだ。
 一応、カジノに入る際には危険物が持ち込まれないように探知機を使った厳しいチェックがあるものの、それらを掻い潜って武器などの類を所持していないとも限らない。特に今夜は春節のイベント時だけあって、客以外にも様々な業者も出入りしている。絶対に安全だと言い切れる保証はないのだ。隼も風もそれを危惧してか、即答できずにいるわけだ。だが、冰は毅然とした態度で説明を続けた。
「皆さんがおっしゃるように、あの帽子を目深に被ったお客様は悪意を持ったイカサマ師と思われます。あの人の左右にいる男性と女性がおそらく仲間だと思います。賭けた位置でボールが止まるように磁気のついた器具を所持しているはずです」
「……! 何てことだ……。このボールに細工をしたということは……工場の段階から奴らに入り込まれていたってことか」
 つまり、かなりの大掛かりな組織の仕業といえる。
「父上――今年は新しいデザイナーがカードやダイスのデザインを担当したということでしたね?」
 このファミリールームへ入って一番最初に目に付いたトランプのカードのデザインを思い出して周が尋ねた。
「ああ、そうだが――。まさかルーレット以外にも何か細工がされているというのか……」
「分かりませんが、この春節のイベントを狙って荒稼ぎが目的であるのは確かでしょう」
 もしくは――もっと悪いことを想像するならば、この機会に周一族の持つメインカジノである此処を乗っ取るか潰すかということも有り得ない話ではない。焦燥と緊張に包まれる中、鐘崎がすぐさま源次郎を呼び寄せて、イカサマを仕掛けてきた組織を割り出す作業に取り掛かっていった。
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