128 / 1,212
香港蜜月
22
しおりを挟む
カジノのディーラーはどんなに優勢であろうと、また逆にどんな窮地に追い込まれていようと、決して感情を見せてはならないというのは基本中の基本というが、今の冰はまさに何を考えているのか分からないポーカーフェイスそのものだ。確実にボールを外せる自信があるのか、はたまた”もしかしたら外せるかも知れない”と若干の迷いがあるのか、表情を見ただけではまったく読み取れないのだ。
「冰……? お前……」
それは周でさえも初めて見る、ディーラーとしての一人のプロの顔だった。
「分かった……。親父に話そう」
周はうなずくと、早速にそのことを父親の隼へと告げた。
報告を受けて、隼と風が冰の元へとやって来た。
「冰、本当にいいのか?」
「お父様、お兄様。はい、少々頼りないかも知れませんが、お役に立てるかも知れません。……もしも他に策がないようでしたら私にやらせてはいただけないでしょうか?」
「それは……もちろん我々にとっては有り難い申し出だが……」
万が一にも冰に危険が及ばないとも限らない。上手く外せたとして、大金が賭かっている故、イカサマ師らが逆上した場合、どういう行動に出るかは予測がつかないからだ。
一応、カジノに入る際には危険物が持ち込まれないように探知機を使った厳しいチェックがあるものの、それらを掻い潜って武器などの類を所持していないとも限らない。特に今夜は春節のイベント時だけあって、客以外にも様々な業者も出入りしている。絶対に安全だと言い切れる保証はないのだ。隼も風もそれを危惧してか、即答できずにいるわけだ。だが、冰は毅然とした態度で説明を続けた。
「皆さんがおっしゃるように、あの帽子を目深に被ったお客様は悪意を持ったイカサマ師と思われます。あの人の左右にいる男性と女性がおそらく仲間だと思います。賭けた位置でボールが止まるように磁気のついた器具を所持しているはずです」
「……! 何てことだ……。このボールに細工をしたということは……工場の段階から奴らに入り込まれていたってことか」
つまり、かなりの大掛かりな組織の仕業といえる。
「父上――今年は新しいデザイナーがカードやダイスのデザインを担当したということでしたね?」
このファミリールームへ入って一番最初に目に付いたトランプのカードのデザインを思い出して周が尋ねた。
「ああ、そうだが――。まさかルーレット以外にも何か細工がされているというのか……」
「分かりませんが、この春節のイベントを狙って荒稼ぎが目的であるのは確かでしょう」
もしくは――もっと悪いことを想像するならば、この機会に周一族の持つメインカジノである此処を乗っ取るか潰すかということも有り得ない話ではない。焦燥と緊張に包まれる中、鐘崎がすぐさま源次郎を呼び寄せて、イカサマを仕掛けてきた組織を割り出す作業に取り掛かっていった。
「冰……? お前……」
それは周でさえも初めて見る、ディーラーとしての一人のプロの顔だった。
「分かった……。親父に話そう」
周はうなずくと、早速にそのことを父親の隼へと告げた。
報告を受けて、隼と風が冰の元へとやって来た。
「冰、本当にいいのか?」
「お父様、お兄様。はい、少々頼りないかも知れませんが、お役に立てるかも知れません。……もしも他に策がないようでしたら私にやらせてはいただけないでしょうか?」
「それは……もちろん我々にとっては有り難い申し出だが……」
万が一にも冰に危険が及ばないとも限らない。上手く外せたとして、大金が賭かっている故、イカサマ師らが逆上した場合、どういう行動に出るかは予測がつかないからだ。
一応、カジノに入る際には危険物が持ち込まれないように探知機を使った厳しいチェックがあるものの、それらを掻い潜って武器などの類を所持していないとも限らない。特に今夜は春節のイベント時だけあって、客以外にも様々な業者も出入りしている。絶対に安全だと言い切れる保証はないのだ。隼も風もそれを危惧してか、即答できずにいるわけだ。だが、冰は毅然とした態度で説明を続けた。
「皆さんがおっしゃるように、あの帽子を目深に被ったお客様は悪意を持ったイカサマ師と思われます。あの人の左右にいる男性と女性がおそらく仲間だと思います。賭けた位置でボールが止まるように磁気のついた器具を所持しているはずです」
「……! 何てことだ……。このボールに細工をしたということは……工場の段階から奴らに入り込まれていたってことか」
つまり、かなりの大掛かりな組織の仕業といえる。
「父上――今年は新しいデザイナーがカードやダイスのデザインを担当したということでしたね?」
このファミリールームへ入って一番最初に目に付いたトランプのカードのデザインを思い出して周が尋ねた。
「ああ、そうだが――。まさかルーレット以外にも何か細工がされているというのか……」
「分かりませんが、この春節のイベントを狙って荒稼ぎが目的であるのは確かでしょう」
もしくは――もっと悪いことを想像するならば、この機会に周一族の持つメインカジノである此処を乗っ取るか潰すかということも有り得ない話ではない。焦燥と緊張に包まれる中、鐘崎がすぐさま源次郎を呼び寄せて、イカサマを仕掛けてきた組織を割り出す作業に取り掛かっていった。
38
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
禁断の祈祷室
土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。
アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。
それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。
救済のために神は神官を抱くのか。
それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。
神×神官の許された神秘的な夜の話。
※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる