極道恋事情

一園木蓮

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狙われた恋人

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「ちょっと待ってください! マカオって……離陸ってどういうことですか? 第一、俺はパスポートさえ持ってきていません!」
 冰が必死に訴えれど、男の態度は変わらなかった。
「パスポートなぞどうにでもなる。これでもマカオでは顔がきくもんでね」
 自信満々の様子からして、それなりの実力者であるのは確かなのだろうが、それにしても強引が過ぎる。権力者というのは、何でも自分の思い通りになると考えている者ばかりではないだろうが、この男はかなりの勢いで自我が強い。同じ権力者でも周や鐘崎らとはまったく違うと冰は思った。
「とにかく困ります! すぐにここから帰してください!」
「そう言われた時の為にと、先手を打ってキミをここまで連れてきたんだ。少々強引なことは承知の上だがね。俺は是が非でもキミが欲しい。キミがどう思おうと――だ」
「そんな……!」
「キミの意向はマカオに着いてからまたゆっくり聞くとするよ。きっと俺の邸を見れば気が変わるだろうからな」
 つまり、それだけの豪邸だという自信があるのだろう。そこで贅沢三昧できると思えば、冰の気持ちも傾くと信じているようだった。
「私は少し用事があるんで、これで失礼する。キミは到着まで自由にしていてくれたまえ」
 男はそれだけ言うと、手下の者たちに冰の世話を任せると言って部屋を出ていった。
「では、どうぞこちらへ。安定高度に入ったらお食事をお持ちします」
 冰が連れてこられた部屋は、こじんまりとした個室だった。一応は横になって休めるベッドとソファにテーブル、化粧室などはあるものの装飾は簡素で窓もない。周のプライベートジェットとは大違いである。それより何より、これではまるで監禁部屋のようだ。行き先はマカオだというが、どこをどう飛んでいるのか、外は明るいのか暗いのかさえも分からない。四角い部屋でただ一人、不安が冰を苛んでいくようだった。

(白龍……こんなことになって、きっと心配をかけているだろうな……。俺、これからどうなっちゃうんだろう。会いたいよ、白龍……!)

 だが、ふさぎ込んでいても仕方がない。周には手間をかけてすまないと思えども、彼が気付いて助けに来てくれるのを待つしかない。
 それに、マカオからなら香港も近い。隙を見て逃げ出すことさえできれば、周ファミリーの元へ助けを求めればいい。それだけを励みに、冰は今この時を耐えるのだった。
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