極道恋事情

一園木蓮

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狙われた恋人

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「とりあえずのところ冰は無事のようだった。本人も思ったより落ち着いていたようだし、声の調子からも怯えた様子は見受けられなかった。こんな時だってのに――本当に強いヤツだ、あいつは……」
 無事を確認できたことで安堵すると共に、敵の中にたった一人でがんばっていることを思うだけで堪らない気持ちがこみ上げる。
 思えば、冰と出会った十二年前もそうだった。繁華街で起きた抗争に巻き込まれて一度に両親を亡くし、その後、隣人だった黄老人に引き取られた後も素直でやさしい青年に育った彼だ。どんな苦境にも卑屈になったりひねくれたりすることなく、その時々を一生懸命に過ごしてきたのだろう。真っ直ぐ健やかに天を目指す竹の強さを持ち、また、時には風にしなる柳のように柔軟な心を併せ持つ。そんな冰が愛しくて堪らなかった。
 早く救い出してやりたい。そして思い切り抱き締めてやりたい。逸る気持ちを抑えるように、周は人知れず拳を握り締めるのだった。
「けど、良かった……。冰君の気持ちを考えたら気が気じゃねえからな。氷川が追い掛けてることを知ることができただけでも心強いだろうしな」
 皆の中でも一等ハラハラとし、まるで我が事のように心配していた紫月がホッと安堵の言葉を口にする。
「ああ――。張の野郎も一応は分かったふうなことを言ってやがったが、鵜呑みにしねえ方が賢明だろう」
「けど、冰君のことは諦めると言ったんだろ?」
「とりあえずは――な。着陸次第、冰を引き渡すとは言っていたが――」
 それにしても、いやに素直に冰を返すことに同意したものだ。冰が周一族の縁者と知ったからなのか、それとも本気でファミリーを敵に回すことを恐れたからか――。いずれにせよ、自ら日本にまで出向き、拉致などという強引な手段に出たにもかかわらず、あまりにも呆気なく引く素振りが腑に落ちないところではある。返すと言っておきながら平然と裏切ることも視野に入れて、その場合の手段を準備しておくに越したことはないだろう。周は改めて気を引き締めるのだった。

 そんな周の考えが見事に的中したことを知るのは、マカオに到着してすぐのことだった。空港へ先回りして張の便を待ち構えていたファミリーから、いくら待っても彼らが見当たらないとの報告を受けたのだ。既に頭領の隼と兄の風もマカオ入りして冰の到着を待っていたのにもかかわらず、彼らは煙のように姿を消してしまったという。
「――ッ、やはり口先だけだったか……」
 憤る周の傍らで、鐘崎がつぶやいた。
「何かカラクリがあるんだろう。張という男はこのマカオではそれなりに顔がきくらしいし、もしかしたらもう空港にはいないのかも知れねえ」
「だが、飛行ルートを変えた形跡はない。間違いなくここ――マカオへ降りているはずだ」
 鐘崎の父の僚一も口を揃えてそう言う。
「とにかく張のヤサを一つ一つ当たるしかねえ。こうなったら人海戦術だ」
 一口にヤサといっても、おそらくは方々に隠れ蓑にできるような拠点を持っているに違いない。ファミリーの側近たちが手分けをして張の立ち回りそうな所をしらみ潰しに当たることとなった。
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