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狙われた恋人
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その後、夜通しでの捜索が続けられ、一夜が明けた頃のことだった。
「頭領、張を発見しました! ヤツがたった今、郊外にある自宅に戻って来たのを確認しました。冰さんも一緒です!」
張の邸を張っていた者たちからの報告にどよめきが起こる。
「よし、すぐに出向くぞ!」
時刻はまだ朝方だったが、周は間髪入れずに立ち上がると、鐘崎と源次郎を連れて張の邸へと向かった。
その頃、冰もまた苦渋の選択を迫られていた。
周との電話では、マカオの空港に付いたらすぐに解放するような話向きだったはずが、張は何とその約束をあっさり反故にしたのだ。通話を終えた後も、さすがに周一族の縁者と知ってか手荒なことはされなかったものの、懇々と嫌味のようなことを聞かされ続けたのであった。
「まさかキミが周家の養子になっていたとはな。厄介なことになったもんだ」
「養子……?」
(……白龍がそう言ったんだろうか……?)
冰は確かに周と共に暮らしているし、彼の家族にも会ったものの、周家と養子縁組をしたわけではない。張というこの男が聞き違いをしたのか、はたまた周に何か考えがあって養子だなどと言ったのかは不明である。ここは、むやみなことは言わないに限ると冰は思っていた。
「とぼけても無駄だ。今の電話で周焔がそう言っていた。キミは家族だとな」
「――家族」
「てっきり黄の養子だとばかり思っていたが、育ての親が亡くなった途端に周家の養子になるなんざ、キミも案外薄情なヤツだな。いや――やり手というべきか。香港マフィアの頭領の周一族相手に……どうやって取り入ったのか知らないが、大したタマだな」
「……そんな。取り入っただなんて……」
「まあ、周一族もキミのディーラーとしての腕を買ってのことなんだろうが、まさか養子にまでするとは……。つまり、それほどキミの腕がいいってことなんだろうがな」
張にとっては、周一族がそんなにまで欲しがるこの冰という男の腕前に、ますますもって興味と執着心が湧いたようだった。――だが、それならどうしてカジノのディーラーとして使わずに、日本の商社などで秘書をさせているのかということが理解できないところではある。
「周焔というのは――確か次男坊だったな。ヤツが日本で起業していたのは意外だったが、キミを秘書として側に置いているのは何故だ?」
「……何故って……それは……」
まさか本当の経緯など言えるはずもない。というよりも、言う義理もないといった方が正しいか。冰が黙っていると、張は焦れたように自らの推測を語り始めた。
「確か、キミの亡くなった両親は日本人だったな。つまり――キミは日本語が達者だから日本の企業で重宝されているということか? そんな理由でディーラーをさせずに秘書として使うなんぞ……まったく、宝の持ち腐れもいいところだ!」
張は一人で憤っていたが、その後に彼から飛び出した言葉は冰にとって驚愕といえることだった。
「頭領、張を発見しました! ヤツがたった今、郊外にある自宅に戻って来たのを確認しました。冰さんも一緒です!」
張の邸を張っていた者たちからの報告にどよめきが起こる。
「よし、すぐに出向くぞ!」
時刻はまだ朝方だったが、周は間髪入れずに立ち上がると、鐘崎と源次郎を連れて張の邸へと向かった。
その頃、冰もまた苦渋の選択を迫られていた。
周との電話では、マカオの空港に付いたらすぐに解放するような話向きだったはずが、張は何とその約束をあっさり反故にしたのだ。通話を終えた後も、さすがに周一族の縁者と知ってか手荒なことはされなかったものの、懇々と嫌味のようなことを聞かされ続けたのであった。
「まさかキミが周家の養子になっていたとはな。厄介なことになったもんだ」
「養子……?」
(……白龍がそう言ったんだろうか……?)
冰は確かに周と共に暮らしているし、彼の家族にも会ったものの、周家と養子縁組をしたわけではない。張というこの男が聞き違いをしたのか、はたまた周に何か考えがあって養子だなどと言ったのかは不明である。ここは、むやみなことは言わないに限ると冰は思っていた。
「とぼけても無駄だ。今の電話で周焔がそう言っていた。キミは家族だとな」
「――家族」
「てっきり黄の養子だとばかり思っていたが、育ての親が亡くなった途端に周家の養子になるなんざ、キミも案外薄情なヤツだな。いや――やり手というべきか。香港マフィアの頭領の周一族相手に……どうやって取り入ったのか知らないが、大したタマだな」
「……そんな。取り入っただなんて……」
「まあ、周一族もキミのディーラーとしての腕を買ってのことなんだろうが、まさか養子にまでするとは……。つまり、それほどキミの腕がいいってことなんだろうがな」
張にとっては、周一族がそんなにまで欲しがるこの冰という男の腕前に、ますますもって興味と執着心が湧いたようだった。――だが、それならどうしてカジノのディーラーとして使わずに、日本の商社などで秘書をさせているのかということが理解できないところではある。
「周焔というのは――確か次男坊だったな。ヤツが日本で起業していたのは意外だったが、キミを秘書として側に置いているのは何故だ?」
「……何故って……それは……」
まさか本当の経緯など言えるはずもない。というよりも、言う義理もないといった方が正しいか。冰が黙っていると、張は焦れたように自らの推測を語り始めた。
「確か、キミの亡くなった両親は日本人だったな。つまり――キミは日本語が達者だから日本の企業で重宝されているということか? そんな理由でディーラーをさせずに秘書として使うなんぞ……まったく、宝の持ち腐れもいいところだ!」
張は一人で憤っていたが、その後に彼から飛び出した言葉は冰にとって驚愕といえることだった。
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