極道恋事情

一園木蓮

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狙われた恋人

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「経営を任せるって……それはどういう……」
「言葉通りだ。あんたの経営手腕は大したものだ。むろん、やり方すべてを認められるかといえば、そうではないがな」
 張の店は彼一代で築き上げたということだし、実際のところ手腕も実力もあるのは確かだろう。それと共に黒い噂もチラホラと聞かれるのも本当のことだ。ただ、腕一本でここまでのし上がるには、そうせざるを得なかったのだろうことも分からない隼ではなかった。
「だが――腕がいいのは大いに認める。これからは汚い手はすべて改め、王道を行けばいい。あんたのその腕でシャングリラを更に発展させてくれたらと思うんだが、どうだ?」
「頭領・周……」
 張は身体中に走った震えを抑えられないまま、その場で床へと突っ伏すようにして頭を垂れた。
「あんたの手腕に掛かれば――潰した資金ルートの分などすぐにでも取り返せるはずだ。もちろん――バックは入れてもらうがな」
「は……! こんな大それたことをした私に……なんというご厚情……。言葉もございません。本当に許されるならば、私にでき得る限りの心血を注いで……全力でシャングリラをお預かりする所存です……!」
「よろしい。では細かい契約などは後程連絡する。今日のところはこれで失礼しよう」
 隼は口元に微笑を浮かべると、その場を後にして行った。
 本来であれば、張に報復をするだけで終わらせるのが当然かも知れない。だが、報復の後には恨みが生まれる。そしてまたその報復をと繰り返す堂々巡りの悪循環が待っているのだ。
 そんなことに労力を使うのは隼の本意ではなかった。誤ったことをした者に対して、けじめはけじめとしてつけるが、それと共に救いの道も合わせて与える。相手を尊重する気持ちを忘れずに、良いところは大いに認めて、それを更に引き上げられればいい。相手が幸せになれば、いつかはそれが巡り巡って自分にも返ってくるのが自然の道理というものだろう。仮にし返ってこないにしても、互いに嫌な感情を抱き続けることはないはずである。同じ堂々巡りならば、報復という闇の感情を育てるよりも幸福を分かち合える仲になれた方がいいと思うわけだ。
 実に隼はこのようにしてファミリーを大きくしてきたのだった。
 ここで温情をかけてもらえた張は、彼自身の為、そして周ファミリーの為に精一杯シャングリラというカジノを大きくして生き甲斐を持つに違いない。張が生き生きとすれば、彼の家臣たちも同じように目標を持って気持ちよく過ごせるはずである。果ては周ファミリーにとっても明るい未来が切り開かれるというものだ。
 これが香港を仕切るマフィア頭領の、頭領たる器の大きさであった。
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