極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
183 / 1,212
狙われた恋人

37

しおりを挟む
「うむ。急ぐことはない。二人でよく考えてくれればいい。ともかくはこんな事態の直後だ。お前さん方も疲れたろうから、今夜はゆっくりと休んでくれ」
 隼の労いの言葉に続けて、今度は兄の風がうれしい知らせを告げた。
「今日は我がファミリーの経営するホテルの最上階に部屋を用意している。本宅に泊まってくれても勿論いいが、どうせお前さん方は二人きりの方が気兼ねがなかろう?」
 クスッと笑いながら言う。
 こんなことがあった後だ。きっと二人水入らずで過ごしたいのは想像に容易く、それ以上に、片時も離れていたくはないだろうとの配慮からだった。
 そんな兄の気遣いをうれしく思いながら、周は冰と共に有り難くその厚意を受けたのだった。

 ホテルは湾に面した高楼にあり、鐘崎と紫月や僚一、源次郎、それに周の側近の李と劉らの為にも同じペントハウスに部屋が取ってあった。鐘崎、紫月のカップルとはまたしても真向かいの部屋で、他の四人は少し離れた位置に用意されている。こんな細かいところまで完璧な兄の気遣いだった。
「それでは皆さん、本当にありがとうございました! おやすみなさい」
 冰は皆に今一度礼を述べると、周と一緒の部屋へと向かった。
「うはぁ……すごい……! 湾が一望できる!」
 大きなガラス張りの窓に向かって感嘆の声を上げた冰を見つめながら、周はふいと瞳を細めた。汐留の社で突然拉致されてから二晩が経った今、本当にいろいろなことがあったわけだが、これまでと何ら変わらない冰の様子に心から安堵する。こうして美しい夜景に感動することもできているし、本当に芯の強い、そして賢くやさしいところもそのままだ。周は自らも窓辺へと歩を向けると、そっと背後から華奢な肩を抱き包んだ。
「冰――」
「白龍……」
 たった一晩離れただけなのに、もう随分と会っていなかったような不思議な気分だ。
「心配かけてごめんね……」
「――お前が無事でよかった」
 本当はもっともっと、そう――たくさん話したいことがあるのに、どちらからもすぐには言葉が出てこない。強く激しく身体を重ね合いたい気持ちもあるが、いまはただこうして互いの温もりを感じながら同じ景色を眺めていられることが何よりもうれしかった。
 しばらくそうして特には何を話すでもなく香港の夜の絶景を見つめた後、静かに周が口を開いた。
「この背中の紋様、これを見た時は本当に驚いた。正直なところ息が止まりそうになったくらいだ」
 ずっと、背中から抱き包んだまま、時折髪に口づけを落としながら言う。
「白龍、気がついてくれたんだね。俺も白龍が黒の四番って言ってくれた時は……心臓が飛び出しそうになっちゃったよ。ああ、分かってくれたんだって……」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

処理中です...