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狙われた恋人
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「うむ。急ぐことはない。二人でよく考えてくれればいい。ともかくはこんな事態の直後だ。お前さん方も疲れたろうから、今夜はゆっくりと休んでくれ」
隼の労いの言葉に続けて、今度は兄の風がうれしい知らせを告げた。
「今日は我がファミリーの経営するホテルの最上階に部屋を用意している。本宅に泊まってくれても勿論いいが、どうせお前さん方は二人きりの方が気兼ねがなかろう?」
クスッと笑いながら言う。
こんなことがあった後だ。きっと二人水入らずで過ごしたいのは想像に容易く、それ以上に、片時も離れていたくはないだろうとの配慮からだった。
そんな兄の気遣いをうれしく思いながら、周は冰と共に有り難くその厚意を受けたのだった。
ホテルは湾に面した高楼にあり、鐘崎と紫月や僚一、源次郎、それに周の側近の李と劉らの為にも同じペントハウスに部屋が取ってあった。鐘崎、紫月のカップルとはまたしても真向かいの部屋で、他の四人は少し離れた位置に用意されている。こんな細かいところまで完璧な兄の気遣いだった。
「それでは皆さん、本当にありがとうございました! おやすみなさい」
冰は皆に今一度礼を述べると、周と一緒の部屋へと向かった。
「うはぁ……すごい……! 湾が一望できる!」
大きなガラス張りの窓に向かって感嘆の声を上げた冰を見つめながら、周はふいと瞳を細めた。汐留の社で突然拉致されてから二晩が経った今、本当にいろいろなことがあったわけだが、これまでと何ら変わらない冰の様子に心から安堵する。こうして美しい夜景に感動することもできているし、本当に芯の強い、そして賢くやさしいところもそのままだ。周は自らも窓辺へと歩を向けると、そっと背後から華奢な肩を抱き包んだ。
「冰――」
「白龍……」
たった一晩離れただけなのに、もう随分と会っていなかったような不思議な気分だ。
「心配かけてごめんね……」
「――お前が無事でよかった」
本当はもっともっと、そう――たくさん話したいことがあるのに、どちらからもすぐには言葉が出てこない。強く激しく身体を重ね合いたい気持ちもあるが、いまはただこうして互いの温もりを感じながら同じ景色を眺めていられることが何よりもうれしかった。
しばらくそうして特には何を話すでもなく香港の夜の絶景を見つめた後、静かに周が口を開いた。
「この背中の紋様、これを見た時は本当に驚いた。正直なところ息が止まりそうになったくらいだ」
ずっと、背中から抱き包んだまま、時折髪に口づけを落としながら言う。
「白龍、気がついてくれたんだね。俺も白龍が黒の四番って言ってくれた時は……心臓が飛び出しそうになっちゃったよ。ああ、分かってくれたんだって……」
隼の労いの言葉に続けて、今度は兄の風がうれしい知らせを告げた。
「今日は我がファミリーの経営するホテルの最上階に部屋を用意している。本宅に泊まってくれても勿論いいが、どうせお前さん方は二人きりの方が気兼ねがなかろう?」
クスッと笑いながら言う。
こんなことがあった後だ。きっと二人水入らずで過ごしたいのは想像に容易く、それ以上に、片時も離れていたくはないだろうとの配慮からだった。
そんな兄の気遣いをうれしく思いながら、周は冰と共に有り難くその厚意を受けたのだった。
ホテルは湾に面した高楼にあり、鐘崎と紫月や僚一、源次郎、それに周の側近の李と劉らの為にも同じペントハウスに部屋が取ってあった。鐘崎、紫月のカップルとはまたしても真向かいの部屋で、他の四人は少し離れた位置に用意されている。こんな細かいところまで完璧な兄の気遣いだった。
「それでは皆さん、本当にありがとうございました! おやすみなさい」
冰は皆に今一度礼を述べると、周と一緒の部屋へと向かった。
「うはぁ……すごい……! 湾が一望できる!」
大きなガラス張りの窓に向かって感嘆の声を上げた冰を見つめながら、周はふいと瞳を細めた。汐留の社で突然拉致されてから二晩が経った今、本当にいろいろなことがあったわけだが、これまでと何ら変わらない冰の様子に心から安堵する。こうして美しい夜景に感動することもできているし、本当に芯の強い、そして賢くやさしいところもそのままだ。周は自らも窓辺へと歩を向けると、そっと背後から華奢な肩を抱き包んだ。
「冰――」
「白龍……」
たった一晩離れただけなのに、もう随分と会っていなかったような不思議な気分だ。
「心配かけてごめんね……」
「――お前が無事でよかった」
本当はもっともっと、そう――たくさん話したいことがあるのに、どちらからもすぐには言葉が出てこない。強く激しく身体を重ね合いたい気持ちもあるが、いまはただこうして互いの温もりを感じながら同じ景色を眺めていられることが何よりもうれしかった。
しばらくそうして特には何を話すでもなく香港の夜の絶景を見つめた後、静かに周が口を開いた。
「この背中の紋様、これを見た時は本当に驚いた。正直なところ息が止まりそうになったくらいだ」
ずっと、背中から抱き包んだまま、時折髪に口づけを落としながら言う。
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