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ワンコ輪舞曲
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マカオから戻ってひと月が経とうとしていた、それは休日前の晩のことである。仕事を終えて社屋から戻り、着替えて夕飯の支度を待っていた時だった。
「わ……ッ、いっけない! そういえば忘れてたー!」
突如ダイニングで大声を上げた冰に、自室で着替え中だった周は怪訝そうな顔つきでニュッと扉を開けた。
「でっけえ声出して。どうした?」
見れば、ダイニングテーブルの脇に設置されたソファから立ち上がりながら、何やら大きな段ボール箱の中をガサゴソと覗き込んでいる冰がいる。
「何だ、その大荷物は……」
素肌にシャツを引っかけながら周が近づいてくる。
「うん、マカオの張さんから届いたって……今さっき真田さんが持ってきてくれたんだけどさ……」
「張からだと? いったい何を送ってきたんだ」
「それがさ……」
箱の中から取り出された物を目にした瞬間に、周はまたしても怪訝な顔つきで首を傾げてみせた。
「何だ、こりゃ……?」
「多分……着ぐるみ……だと思う」
「着ぐるみだ?」
冰が広げて胸前に当ててみせたそれを見るなり、呆れたように目を丸くしてしまった。確かに大人が着られる大きさの、モコモコとした生地でできた着ぐるみだったからだ。しかも顔の部分だけが出るようになっていて、耳の形をしたフードまで付いている。いわゆる全身タイプである。
「犬か、これ?」
「うん、多分……。手紙にそう書いてある。俺、張さんに犬飼ってるなんて言っちゃったじゃない? あれは嘘でしたって言うの、すっかり忘れてたよ……」
冰は目を白黒させながらそう言って、張からだという手紙を差し出してみせた。
確かに犬を飼っているとは言ったが、それは張を出し抜く為の芝居の一環であって事実ではない。だが、その後、張とはカジノで別れたきりになっていたので、そんなことはすっかり脳裏から抜け落ちてしまっていたわけだ。
「手紙だと? どれ、見せてみろ。何だって言ってきたんだ、張のヤツは」
周は封筒ごと受け取ると、中を開いて声に出して読み始めた。
雪吹君、その後お元気かな?
お陰様で俺の方は頭領・周からお預かりしたカジノ、シャングリラの方も順調に運び出しています。一日も早く雪吹君と周焔さんに来てもらえる立派な店になるように頑張る所存です。
ところで、先日の詫びも込めて、キミにプレゼントを選んだので送ります。本当はキミが飼っているワンコたちにと思って服を探したんだけれど、犬の大きさを聞いていなかったことに気が付いてね。そこで、今回はキミが着られるように人間用の着ぐるみを贈ることにします。ワンコたちと遊ぶ時にでも着てくれたら嬉しい。
せっかくなので、周焔さんの分も選んでみたぜ!
あと、執事さんや世話係さんの分も。それぞれ違う種類のにしたので、皆で楽しんでくれたらと思います。
今度はちゃんとキミのワンコたちのを送るから! よかったら犬種と大きさを教えて欲しいな。
それじゃ、周焔さんにもよろしくお伝えください。またマカオに遊びに来てくれるのを楽しみに待っています。
「――って、何だ、こりゃ……。張のヤツ、何を考えていやがるんだか……」
改めて段ボール箱の中を覗いてみると、手紙にあった通りに四着ほどの大人用の着ぐるみがわんさと出てきて、周は思わず眉をヒクつかせてしまった。
薄茶色をした可愛らしい耳のものは柴犬だろうか。別のものを引っ張り出してみれば、黒一色で耳がピンと凜々しいタイプまである。
「柴に――こっちはドーベルマンかシェパードってところか?」
「うは! これは真っ白だ! フカフカしてて毛足が長くて可愛い! ってことは、これはスピッツ系かな? それともポメラニアンかな?」
「……スピッツじゃねえか?」
二人で箱をあさると、結局薄茶と白の可愛いらしい系に、黒と焦げ茶の凜々しい系が二着ずつ出てきた。
「わ……ッ、いっけない! そういえば忘れてたー!」
突如ダイニングで大声を上げた冰に、自室で着替え中だった周は怪訝そうな顔つきでニュッと扉を開けた。
「でっけえ声出して。どうした?」
見れば、ダイニングテーブルの脇に設置されたソファから立ち上がりながら、何やら大きな段ボール箱の中をガサゴソと覗き込んでいる冰がいる。
「何だ、その大荷物は……」
素肌にシャツを引っかけながら周が近づいてくる。
「うん、マカオの張さんから届いたって……今さっき真田さんが持ってきてくれたんだけどさ……」
「張からだと? いったい何を送ってきたんだ」
「それがさ……」
箱の中から取り出された物を目にした瞬間に、周はまたしても怪訝な顔つきで首を傾げてみせた。
「何だ、こりゃ……?」
「多分……着ぐるみ……だと思う」
「着ぐるみだ?」
冰が広げて胸前に当ててみせたそれを見るなり、呆れたように目を丸くしてしまった。確かに大人が着られる大きさの、モコモコとした生地でできた着ぐるみだったからだ。しかも顔の部分だけが出るようになっていて、耳の形をしたフードまで付いている。いわゆる全身タイプである。
「犬か、これ?」
「うん、多分……。手紙にそう書いてある。俺、張さんに犬飼ってるなんて言っちゃったじゃない? あれは嘘でしたって言うの、すっかり忘れてたよ……」
冰は目を白黒させながらそう言って、張からだという手紙を差し出してみせた。
確かに犬を飼っているとは言ったが、それは張を出し抜く為の芝居の一環であって事実ではない。だが、その後、張とはカジノで別れたきりになっていたので、そんなことはすっかり脳裏から抜け落ちてしまっていたわけだ。
「手紙だと? どれ、見せてみろ。何だって言ってきたんだ、張のヤツは」
周は封筒ごと受け取ると、中を開いて声に出して読み始めた。
雪吹君、その後お元気かな?
お陰様で俺の方は頭領・周からお預かりしたカジノ、シャングリラの方も順調に運び出しています。一日も早く雪吹君と周焔さんに来てもらえる立派な店になるように頑張る所存です。
ところで、先日の詫びも込めて、キミにプレゼントを選んだので送ります。本当はキミが飼っているワンコたちにと思って服を探したんだけれど、犬の大きさを聞いていなかったことに気が付いてね。そこで、今回はキミが着られるように人間用の着ぐるみを贈ることにします。ワンコたちと遊ぶ時にでも着てくれたら嬉しい。
せっかくなので、周焔さんの分も選んでみたぜ!
あと、執事さんや世話係さんの分も。それぞれ違う種類のにしたので、皆で楽しんでくれたらと思います。
今度はちゃんとキミのワンコたちのを送るから! よかったら犬種と大きさを教えて欲しいな。
それじゃ、周焔さんにもよろしくお伝えください。またマカオに遊びに来てくれるのを楽しみに待っています。
「――って、何だ、こりゃ……。張のヤツ、何を考えていやがるんだか……」
改めて段ボール箱の中を覗いてみると、手紙にあった通りに四着ほどの大人用の着ぐるみがわんさと出てきて、周は思わず眉をヒクつかせてしまった。
薄茶色をした可愛らしい耳のものは柴犬だろうか。別のものを引っ張り出してみれば、黒一色で耳がピンと凜々しいタイプまである。
「柴に――こっちはドーベルマンかシェパードってところか?」
「うは! これは真っ白だ! フカフカしてて毛足が長くて可愛い! ってことは、これはスピッツ系かな? それともポメラニアンかな?」
「……スピッツじゃねえか?」
二人で箱をあさると、結局薄茶と白の可愛いらしい系に、黒と焦げ茶の凜々しい系が二着ずつ出てきた。
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