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恋敵
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「どっちがって……。つか、あんた誰?」
紫月が怪訝顔で問う。冰の方は驚きのあまりか、ポカンと口を開いたまま固まってしまっていたからだ。
女は不機嫌をあらわにした雰囲気ながら、顔立ちだけは整っていて美人といえる。服装も一目で洒落た高級なものだと分かるような出立ちである。年齢は紫月らと同じくらいか、少し若いくらいだろうか。いずれにせよ、冰からみれば若干年上だろうと思える感じだった。
冰を名指しするくらいだから、この女の方はこちらのことを知っているようだが、見覚えはない。しばし嫌な雰囲気が漂った後、紫月が再び女に問い掛けた。
「あのさ、俺ら――多分初対面だと思うんだけど」
すると女の方もようやくと二言目を口にした。
「用があるのは雪吹冰に――よ。それで、どっちなの? あなた? それともそっちのあなたなの?」
早く答えなさいよとばかりに苛立ち口調だ。
「……あの、雪吹は俺ですが」
冰がおずおずと口にすると、女はますます額に険を浮かべながら、『ふーん』と高飛車に顎をしゃくってみせた。
「へえ、あなたが……。なによ、まだほんの子供じゃないの。こんな子のどこがいいのかしら」
あからさまに喧嘩腰の言葉を投げつけてよこす。そんな様子に、さすがに黙っていられないとばかりに、紫月は眉根を寄せてしまった。
「あんた、失礼じゃねえか? いきなし割り込んできてさ、冰君に何の用か知らんけど、自己紹介くらいしたらどうよ」
やれやれ――と、呆れ気味に肩をすくめながらそう促す。すると、女はとんでもなく驚くようなことを言ってのけた。
「アタシは唐静雨。周焔の恋人よ」
「え――ッ!?」
「はぁッ!?」
冰と紫月は同時に大声を上げさせられてしまった。
「周焔の恋人だ? ウソこくなって!」
硬直したまま動けずにいる冰に代わって紫月が対面を買って出る。
「嘘じゃないわ! まあ……正しくは元恋人……だけど」
「元恋人だ?」
「そ、そうよ! 焔とは大学が一緒で、ず……ずっと……そう、ずっと付き合ってたん……だから!」
何とも歯切れの悪く口ごもりながらも語気を強めて言う。
まあ、周とてそれなりの年齢だ。いい男なのは万人が認めるところだし、過去に付き合った女の一人や二人はいたとしてもさして驚くことじゃない。だが、冰にとってはやはり心穏やかではいられないのも仕方なかろうか。すっかり硬直状態のまま言葉にもならないといった様子に、とにかくは紫月が代わりに受け応えをすることにしたのだった。
「で、その元彼女さんが何の用なのかな?」
「決まってるじゃない! 今すぐ焔と別れてちょうだいって言いにきたのよ!」
女は上から目線で高飛車にそう言い捨てた。
紫月が怪訝顔で問う。冰の方は驚きのあまりか、ポカンと口を開いたまま固まってしまっていたからだ。
女は不機嫌をあらわにした雰囲気ながら、顔立ちだけは整っていて美人といえる。服装も一目で洒落た高級なものだと分かるような出立ちである。年齢は紫月らと同じくらいか、少し若いくらいだろうか。いずれにせよ、冰からみれば若干年上だろうと思える感じだった。
冰を名指しするくらいだから、この女の方はこちらのことを知っているようだが、見覚えはない。しばし嫌な雰囲気が漂った後、紫月が再び女に問い掛けた。
「あのさ、俺ら――多分初対面だと思うんだけど」
すると女の方もようやくと二言目を口にした。
「用があるのは雪吹冰に――よ。それで、どっちなの? あなた? それともそっちのあなたなの?」
早く答えなさいよとばかりに苛立ち口調だ。
「……あの、雪吹は俺ですが」
冰がおずおずと口にすると、女はますます額に険を浮かべながら、『ふーん』と高飛車に顎をしゃくってみせた。
「へえ、あなたが……。なによ、まだほんの子供じゃないの。こんな子のどこがいいのかしら」
あからさまに喧嘩腰の言葉を投げつけてよこす。そんな様子に、さすがに黙っていられないとばかりに、紫月は眉根を寄せてしまった。
「あんた、失礼じゃねえか? いきなし割り込んできてさ、冰君に何の用か知らんけど、自己紹介くらいしたらどうよ」
やれやれ――と、呆れ気味に肩をすくめながらそう促す。すると、女はとんでもなく驚くようなことを言ってのけた。
「アタシは唐静雨。周焔の恋人よ」
「え――ッ!?」
「はぁッ!?」
冰と紫月は同時に大声を上げさせられてしまった。
「周焔の恋人だ? ウソこくなって!」
硬直したまま動けずにいる冰に代わって紫月が対面を買って出る。
「嘘じゃないわ! まあ……正しくは元恋人……だけど」
「元恋人だ?」
「そ、そうよ! 焔とは大学が一緒で、ず……ずっと……そう、ずっと付き合ってたん……だから!」
何とも歯切れの悪く口ごもりながらも語気を強めて言う。
まあ、周とてそれなりの年齢だ。いい男なのは万人が認めるところだし、過去に付き合った女の一人や二人はいたとしてもさして驚くことじゃない。だが、冰にとってはやはり心穏やかではいられないのも仕方なかろうか。すっかり硬直状態のまま言葉にもならないといった様子に、とにかくは紫月が代わりに受け応えをすることにしたのだった。
「で、その元彼女さんが何の用なのかな?」
「決まってるじゃない! 今すぐ焔と別れてちょうだいって言いにきたのよ!」
女は上から目線で高飛車にそう言い捨てた。
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