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恋敵
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「防犯カメラがあれば、記録を見せてもらいたいんだが――」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
店長に案内されて事務室へと向かう。
「当店はすべて個室仕様となっておりますので、各部屋にカメラを置かせていただいております」
新しい店だし、昨今の防犯事情からか、よく設備が整っていることは幸いである。映像を追っていくと、冰らが入店した時から個室での様子までが詳しく記録されていた。
「ここまでは特に何もないようだな」
二人仲良くおしゃべりに花を咲かせながら、パスタやケーキなどを頬張っている様子が映っている。早送りで見ていくと、途中で見知らぬ女が二人のいる個室を訪ねて来た様子が映り込んできた。
「女か……。いったい誰だ?」
一見したところ、なかなかに洒落たスーツ姿の女性である。髪はショートで、細身の若い女のようだった。
「――後ろ姿だけか。顔は分からねえな」
カメラの位置からは彼女の後ろ姿だけしか見えなかったが、反対に紫月と冰の表情ははっきりと映っている。二人共、怪訝そうな顔付きでいることから知り合いではなさそうだ。冰はひどく驚いたような感じで、女と会話をしているのは主に紫月の方であった。
「すまない、今のところを巻き戻してスローで見せてもらえるか?」
鐘崎が紫月の表情を真剣に見つめている。
「あ、ん、た、誰?」
女の頭が左右に動くので部分的にではあるが、紫月の表情がはっきりと映っている時の口元の動きから読唇術で会話を読み取っているのだ。
「どうやら知らねえ女のようだな」
少しずつ映像を送ると、驚くような会話がなされていることに気がついた。
「ここだ。ちょっとスローでもう一度回してくれ」
「はい」
「元、こ、い、び、と、だ? ――と言っているようだ」
「元恋人だと? いったい誰のだ」
周も怪訝そうにして画面に食いつく。
「さあ……話の流れが分からねえことには何とも言えねえが。ただ、二人の表情から察すると冰がえらく驚いた感じに見えるな。紫月のヤツは余裕がありそうだから、ひょっとすると氷川、お前の関係者じゃねえのか?」
「――俺の?」
「この女に見覚えはねえのか? 以前に付き合ったことのある女とか」
「いや――、俺は日本に来てから恋人を作ったのなんざ冰が初めてだ」
「じゃあ香港にいた頃はどうだ? 向こうで付き合ってた女に心当たりはねえのかよ」
周はしばし考え込みながらも、マジマジと画面を見つめていたが、思い当たらないようである。
「俺が香港にいたのは学生の時分までだが――そもそもこんな髪の短い女に心当たりはねえがな」
「おいおい、髪型だけで決めるなよ。元は長かったがカットしたってこともある」
鐘崎が随分と執拗に訊いてくるので、周はますます怪訝な顔つきで眉根を寄せてしまった。
「てめ、どうしてもこの女を俺の元恋人にしてえってのか? それよりてめえの方こそどうなんだ」
「俺に心当たりはねえ。男であれ女であれ、例え後ろ姿でも一度関係を持った人間なら見分けはつくからな。ああ――誤解のねえように言っておくが、関係ってのは……寝たとか寝ないとかの意味じゃねえぞ?」
片眉をしかめながら苦笑気味にそう付け加える。
まあ、鐘崎の仕事柄から考えればそれも嘘ではないのだろう。幼い頃から常に危険と隣り合わせの環境が、必要以上に人間を見分ける目を養ってしまっているからだ。
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
店長に案内されて事務室へと向かう。
「当店はすべて個室仕様となっておりますので、各部屋にカメラを置かせていただいております」
新しい店だし、昨今の防犯事情からか、よく設備が整っていることは幸いである。映像を追っていくと、冰らが入店した時から個室での様子までが詳しく記録されていた。
「ここまでは特に何もないようだな」
二人仲良くおしゃべりに花を咲かせながら、パスタやケーキなどを頬張っている様子が映っている。早送りで見ていくと、途中で見知らぬ女が二人のいる個室を訪ねて来た様子が映り込んできた。
「女か……。いったい誰だ?」
一見したところ、なかなかに洒落たスーツ姿の女性である。髪はショートで、細身の若い女のようだった。
「――後ろ姿だけか。顔は分からねえな」
カメラの位置からは彼女の後ろ姿だけしか見えなかったが、反対に紫月と冰の表情ははっきりと映っている。二人共、怪訝そうな顔付きでいることから知り合いではなさそうだ。冰はひどく驚いたような感じで、女と会話をしているのは主に紫月の方であった。
「すまない、今のところを巻き戻してスローで見せてもらえるか?」
鐘崎が紫月の表情を真剣に見つめている。
「あ、ん、た、誰?」
女の頭が左右に動くので部分的にではあるが、紫月の表情がはっきりと映っている時の口元の動きから読唇術で会話を読み取っているのだ。
「どうやら知らねえ女のようだな」
少しずつ映像を送ると、驚くような会話がなされていることに気がついた。
「ここだ。ちょっとスローでもう一度回してくれ」
「はい」
「元、こ、い、び、と、だ? ――と言っているようだ」
「元恋人だと? いったい誰のだ」
周も怪訝そうにして画面に食いつく。
「さあ……話の流れが分からねえことには何とも言えねえが。ただ、二人の表情から察すると冰がえらく驚いた感じに見えるな。紫月のヤツは余裕がありそうだから、ひょっとすると氷川、お前の関係者じゃねえのか?」
「――俺の?」
「この女に見覚えはねえのか? 以前に付き合ったことのある女とか」
「いや――、俺は日本に来てから恋人を作ったのなんざ冰が初めてだ」
「じゃあ香港にいた頃はどうだ? 向こうで付き合ってた女に心当たりはねえのかよ」
周はしばし考え込みながらも、マジマジと画面を見つめていたが、思い当たらないようである。
「俺が香港にいたのは学生の時分までだが――そもそもこんな髪の短い女に心当たりはねえがな」
「おいおい、髪型だけで決めるなよ。元は長かったがカットしたってこともある」
鐘崎が随分と執拗に訊いてくるので、周はますます怪訝な顔つきで眉根を寄せてしまった。
「てめ、どうしてもこの女を俺の元恋人にしてえってのか? それよりてめえの方こそどうなんだ」
「俺に心当たりはねえ。男であれ女であれ、例え後ろ姿でも一度関係を持った人間なら見分けはつくからな。ああ――誤解のねえように言っておくが、関係ってのは……寝たとか寝ないとかの意味じゃねえぞ?」
片眉をしかめながら苦笑気味にそう付け加える。
まあ、鐘崎の仕事柄から考えればそれも嘘ではないのだろう。幼い頃から常に危険と隣り合わせの環境が、必要以上に人間を見分ける目を養ってしまっているからだ。
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