極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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 だが、よくよく考えてみれば、そんなに美味い話などあろうはずがない。その男――つまりは張だが――彼がどれほど裕福なのかは知らないが、こんな短時間に二つ返事で大金を都合してくれるなど、あるわけもないと思うからだ。
 社長は怪訝そうにしていたが、冰は逸るように身を乗り出しながら、
「あの方に都合していただくわけではありません。ですが、真っ当にお金が用意できるかも知れないんです」
 そう言って、真摯な態度で社長を見つめた。
「全額を一気に返しきれるかどうか分かりませんが、極力揃えられるようにします! ですので――一日ほどお時間をいただけませんか? 決して逃げたり警察に駆け込んだりなんかしないとお約束します!」
「一日って……キミなぁ」
 社長は何が何だか分からずに唖然としながらも眉をしかめていたが、冰のあまりの真剣さと熱のこもった口調に押されて、何となくうなずかざるを得ない雰囲気になってしまう。
「あ、そうだ! 絶対に逃げないということを信じていただく為にもこれを置いていきます!」
 冰は周から贈られた腕時計を外すと、それを社長に差し出してみせた。
「この時計、とても高価なものなんです。俺にはお門違いっていうくらいの高級品なんですが、これは大切な人からプレゼントしてもらった大事な物なんです。これを社長さんにお預けしていきますから、どうか俺たちを信じて待ってもらえませんか?」
 差し出された時計を見れば、確かに値打ち物だ。この善良そうな若い男がホイホイと買えるような代物とも思えない。
「もしも俺が裏切ったら、その時計を売ってお金に換えてくださって構いません。でも本当にそれ、大事な方からいただいた物なんで、俺は絶対に戻ってきます! ご不安でしたら、俺たちに監視役を付けてくださってもいいです! どうかお願いします!」
 ガバリと頭を下げた冰の熱意に、社長はすっかり根負けしてしまった。
「分かった――。キミを信じよう。私はあの女と一緒にこのホテルで待機させてもらう。疑うという意味ではないが、念の為の監視として部下を二人ほど付けるがいいかね?」
「はい、構いません」
「期限は明日の朝でいいんだな?」
「はい! それで結構です。必ずご連絡します! ありがとうございます!」
 冰は心から嬉しそうに言うと、紫月と共に張の元へと戻っていった。



◇    ◇    ◇



「それで? 張敏と会って何か名案でも浮かんだってか?」
 歩きながら紫月が問う。
「はい。詳しくは張さんも交えてお話しますんで」
「オッケー!」
 意思のある様子の冰を横目にしながら、紫月は見守るように微笑んだ。
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