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恋敵
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「爺やは黙っててちょうだいな! アタクシのお小遣いをどう使おうとアタクシの自由よ! お父様には関係なくてよ! それに……もしも勝てば三十倍以上になるのよ? それこそ映画みたいで素敵じゃないの!」
「そんな……お嬢様……! 映画とは違うのですぞ! そのような夢みたいなお話があるわけございません!」
「ああ、もううるさい爺やだこと! いいからあなたは黙っていらっしゃい! ディーラーさんも……早く始めてちょうだいな!」
ディーラーはニヤニヤとしながら、『それでは――』と言ってホイールに手を掛けた。
スマートな手つきでボールが盤の上に放たれると、その様子を見ていたギャラリーたちも固唾を呑んだように静寂が立ち込めた。
冰の視線が鋭く光る。だが、それはほんの一瞬のことで、周囲の誰にも気付かれない程度であった。
「ではお嬢様、どうぞお好きな位置を」
「そうね、じゃあ……赤の九番にするわ! 可愛らしくてアタクシの今日のドレスにもピッタリじゃなくて? きっと幸運の番号よ」
冰が戸惑いながらも気丈な感じでそう告げると、ディーラーはまたしてもニヤりと口角を上げた。つまり、彼が狙った位置とは違う番号だったからだ。
(ふん! バカな娘だ。全部スられるとも知らねえで、意固地になってこんな大金を張りやがって。これで俺の立場もより一層上がるというものだ)
心の中でほくそ笑み、『残念でございました』と告げる瞬間をワクワクとしながら待っていた。
ところが――だ。
ホイールの回転が止まると、なんと冰が言った赤の九番にボールがピタリとはまってしまったのだ。
周囲で固唾を呑んでいた客たちからはどよめきの後で大歓声が上がる大騒ぎと相成った。
「うっそ……。あら、いやだ……本当に勝っちゃったわアタクシ……!」
冰がこれみよがしに驚いてみせる傍らでは、爺や役の真田も歓喜に目を剥いている。
「お、お、お嬢様! なんとこれは……奇跡が起きたのでございますかな!」
「……ホントだわ! 奇跡って本当にあるのね……。っていうよりも……これは実力よね? アタクシの目利きじゃなくて?」
「そ、そうでございますな! さすがはお嬢様でいらっしゃいます!」
「だから言ったじゃない! いったいいくらになったのかしら? すごいわ、アタクシ! なんてツイているんでしょ! きっと神様が味方してくださったのだわ!」
大喜びする冰の目の前で、ディーラーは真っ青になりながら唇を噛み締めていた。
「バカな……そんなはずは……」
それもそのはずである。ディーラーにしてみれば、自分が狙った位置とは別の枠でボールが止まってしまったからだった。
(こ、こんなはずでは……)
だが、実はホイールにボールが投げ込まれた時点で、冰には彼が狙った位置が読めていたのだ。ただ、その時のわずかな手のブレもまた見切っていた冰であった。直前の交渉と大勢の観客たちの視線に押されてか、彼が絶妙に指の動きをミスしたことに気付いたからだった。
とにかくは”お嬢様”冰の大勝ちである。見ていた客たちの歓喜はおさまらず、店側も何事かと黒服や支配人までもが集まり出してきた。
ディーラーはますます蒼くなり、どうにかしてこの負けを覆さんと焦燥感に駆られていったようだ。
「そんな……お嬢様……! 映画とは違うのですぞ! そのような夢みたいなお話があるわけございません!」
「ああ、もううるさい爺やだこと! いいからあなたは黙っていらっしゃい! ディーラーさんも……早く始めてちょうだいな!」
ディーラーはニヤニヤとしながら、『それでは――』と言ってホイールに手を掛けた。
スマートな手つきでボールが盤の上に放たれると、その様子を見ていたギャラリーたちも固唾を呑んだように静寂が立ち込めた。
冰の視線が鋭く光る。だが、それはほんの一瞬のことで、周囲の誰にも気付かれない程度であった。
「ではお嬢様、どうぞお好きな位置を」
「そうね、じゃあ……赤の九番にするわ! 可愛らしくてアタクシの今日のドレスにもピッタリじゃなくて? きっと幸運の番号よ」
冰が戸惑いながらも気丈な感じでそう告げると、ディーラーはまたしてもニヤりと口角を上げた。つまり、彼が狙った位置とは違う番号だったからだ。
(ふん! バカな娘だ。全部スられるとも知らねえで、意固地になってこんな大金を張りやがって。これで俺の立場もより一層上がるというものだ)
心の中でほくそ笑み、『残念でございました』と告げる瞬間をワクワクとしながら待っていた。
ところが――だ。
ホイールの回転が止まると、なんと冰が言った赤の九番にボールがピタリとはまってしまったのだ。
周囲で固唾を呑んでいた客たちからはどよめきの後で大歓声が上がる大騒ぎと相成った。
「うっそ……。あら、いやだ……本当に勝っちゃったわアタクシ……!」
冰がこれみよがしに驚いてみせる傍らでは、爺や役の真田も歓喜に目を剥いている。
「お、お、お嬢様! なんとこれは……奇跡が起きたのでございますかな!」
「……ホントだわ! 奇跡って本当にあるのね……。っていうよりも……これは実力よね? アタクシの目利きじゃなくて?」
「そ、そうでございますな! さすがはお嬢様でいらっしゃいます!」
「だから言ったじゃない! いったいいくらになったのかしら? すごいわ、アタクシ! なんてツイているんでしょ! きっと神様が味方してくださったのだわ!」
大喜びする冰の目の前で、ディーラーは真っ青になりながら唇を噛み締めていた。
「バカな……そんなはずは……」
それもそのはずである。ディーラーにしてみれば、自分が狙った位置とは別の枠でボールが止まってしまったからだった。
(こ、こんなはずでは……)
だが、実はホイールにボールが投げ込まれた時点で、冰には彼が狙った位置が読めていたのだ。ただ、その時のわずかな手のブレもまた見切っていた冰であった。直前の交渉と大勢の観客たちの視線に押されてか、彼が絶妙に指の動きをミスしたことに気付いたからだった。
とにかくは”お嬢様”冰の大勝ちである。見ていた客たちの歓喜はおさまらず、店側も何事かと黒服や支配人までもが集まり出してきた。
ディーラーはますます蒼くなり、どうにかしてこの負けを覆さんと焦燥感に駆られていったようだ。
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