極道恋事情

一園木蓮

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恋敵

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 そして翌日――。
 兄の風の心遣いで午前中いっぱいまでゆっくり水入らずで過ごした恋人たちは、午後一番で香港の周邸へと向かった。
 鐘崎と紫月の二人は、本来は予定になかった香港行きを楽しんでいる様子だった。まあ、拉致を知った当初は確かに焦らされたハプニングだったといえばそうに違いないが、思い掛けず旅行気分を味わえたことはラッキーだと言って、特に紫月の方はご機嫌のようだ。
「まったく、暢気なことだ」
 フェリーの甲板に出てはしゃいでいる”嫁”たちの姿を見守りながら、周と鐘崎の旦那組は苦笑状態である。
「だが、まあ――あんなことがあってもへこたれずに、ああして元気な笑い声を聞くことができるってのはいいもんだな」
「確かにな、ポジティブなのはいいことだ」
「で、お前らはどうするんだ。せっかくだから二、三日ゆっくりしていきゃいいと思うが――仕事の都合が許せばだが」
 周が尋ねると、鐘崎もそうするつもりだと言ってうなずいた。
「紫月もお前らの披露目の件に関しては興味津々のようだしな。特に冰の衣装選びなんかは一緒に見に行きたいとか。今は急ぎの仕事も入ってねえし、親父も日本にいるから仕事の方は大丈夫だそうだ」
「そうか。だったら部屋は俺の方で用意させてもらうからゆっくりしていってくれるといい」
 周としても、自分の過去の関係者が引き起こした事件に巻き込んでしまった詫びの気持ちもあるのだろう、鐘崎は遠慮なく言葉に甘えることにしたのだった。

 そうして香港の実家に着いた一同を、逸る気持ちで待っていたのは母親の香蘭だった。門に車が見えるなり、玄関を飛び出して出迎えるほどの興奮ぶりである。今回もまた冰が拉致まがいの事件に遭ったというので、とにかく心配でならなかったらしい。
「冰! 冰ー! ああ、本当に無事で良かったわ!」
 車から降りるのさえ待てずといった調子で、胸に飛び込んできた香蘭に驚きつつも、その様からは本当に心配を掛けていたことが分かって、冰は有り難さに心の奥がキュッと熱くなるのを感じていた。
「お母様……! ご心配お掛けしてすみません」
「ええ、ええ! もう居ても立ってもいられなかったのよ! 私も一緒にマカオに行くって言ったんだけど、旦那様と風がお前はここで待っていろなんて言うんだもの! 息子の一大事だっていうのに、家で待ってるしかできないなんて――気が気じゃなかったんだから! でも本当に無事で良かったわ!」
 ”息子の一大事”という言葉が深く心に沁み渡る。彼女にとっては既に家族という認識でいてくれるのだろう。冰はそんな義母の気持ちが心底有り難くて、思わず感激の涙を誘われてしまいそうだった。
 そんな母親同様、父の隼も皆の無事を喜んでくれて、一同は夕飯までの時間をそれぞれの部屋で寛ぐこととなった。
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