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厄介な依頼人
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多かれ少なかれ、人は誰しも”厄介”と思える出来事や人物に遭遇することがあるものだ。それが仕事相手ともなれば簡単には関係を断ち切れるものでもない。鐘崎遼二にとって、今回の依頼人はまさに”厄介”というに値する相手であった。
それはつい一週間ほど前のことである。鐘崎組に、とある財閥系企業の社長から海外のクライアントとの間で行われる規模の大きな商業取引きにあたって警護をお願いしたいとの依頼がきたことからその厄介事が始まったのだ。
鐘崎の父親は裏社会では一目置かれる存在で、”始末屋”という呼称で名をはせている人物である。鐘崎組という看板を掲げ、世間からはいわゆる極道と呼ばれていた。
とはいえ、広域指定暴力団に属しているというわけではなく、一般的にはあまり知られていない陰の裏社会を取り仕切るような立場であった。
例えば、司法などの関係で表立っては動けない立場の人間に代わって、秘密裏に事案を解決するというような仕事を担っている。依頼人は政財界から個人の企業経営者など多岐に渡っていて、国際的な商業取引の護衛や通訳などの大規模なものが主ではあるが、中には個人的な依頼まで様々であった。例えば不良グループに入ってしまって抜けられずいる企業の社長の息子や娘を救い出して欲しいというような案件なども珍しくはないといったところなのだ。
活動範囲も国内のみならず、アジア各国でも緻密に展開していて、体術や射撃、諜報活動やコンピューター関連――と、様々な分野で抜きん出ている精鋭たちで組織されている。息子である鐘崎も父に勝るとも劣らない切れ者ぶりで、若頭として組を支えている一人であった。
そんな彼には唯一無二の伴侶といえる相手がいる。幼馴染みとして育った一之宮紫月だ。二人は男性同士だが、様々紆余曲折を経て互いを生涯の伴侶として誓い合った仲だった。
そんなふうにして現在は順風満帆な鐘崎であったが、ここ最近で請け負った仕事に少々頭を悩まされるといった事態に直面していた。
依頼の内容としてはごく普通の、財閥系企業の社長から海外のクライアントと規模の大きい取引きがあるので、護衛方々警備をお願いしたいというものだった。
取引自体は無事に済み、取り立てて問題はなかったのだが、鐘崎にとって”厄介”と思えることは、社長の娘であり、現在は父親の秘書をしているという女の存在であった。
彼女は二十代の半ばだそうで、大学院を卒業すると同時に父親の秘書として入社したらしい。名を三崎繭といって、外見だけでいえばなかなかに見目美しいおとなしそうな感じの女性であった。だが、そんな見た目とは相反して初対面からやたらと熱い視線を送ってくるようなところがあり、必要以上に連絡を取ってきたり、父親には内緒で食事に誘ってきたりするのが煩わしく思えていたのだ。どうやら、仕事を介して接する内に、個人的に鐘崎のことを気に入ってしまったようである。その執拗ぶりは今や組の若い衆たちにまで知れ渡っていて、案の定か幹部の清水が少々苦い顔つきで若頭・鐘崎の元へとやって来た。
それはつい一週間ほど前のことである。鐘崎組に、とある財閥系企業の社長から海外のクライアントとの間で行われる規模の大きな商業取引きにあたって警護をお願いしたいとの依頼がきたことからその厄介事が始まったのだ。
鐘崎の父親は裏社会では一目置かれる存在で、”始末屋”という呼称で名をはせている人物である。鐘崎組という看板を掲げ、世間からはいわゆる極道と呼ばれていた。
とはいえ、広域指定暴力団に属しているというわけではなく、一般的にはあまり知られていない陰の裏社会を取り仕切るような立場であった。
例えば、司法などの関係で表立っては動けない立場の人間に代わって、秘密裏に事案を解決するというような仕事を担っている。依頼人は政財界から個人の企業経営者など多岐に渡っていて、国際的な商業取引の護衛や通訳などの大規模なものが主ではあるが、中には個人的な依頼まで様々であった。例えば不良グループに入ってしまって抜けられずいる企業の社長の息子や娘を救い出して欲しいというような案件なども珍しくはないといったところなのだ。
活動範囲も国内のみならず、アジア各国でも緻密に展開していて、体術や射撃、諜報活動やコンピューター関連――と、様々な分野で抜きん出ている精鋭たちで組織されている。息子である鐘崎も父に勝るとも劣らない切れ者ぶりで、若頭として組を支えている一人であった。
そんな彼には唯一無二の伴侶といえる相手がいる。幼馴染みとして育った一之宮紫月だ。二人は男性同士だが、様々紆余曲折を経て互いを生涯の伴侶として誓い合った仲だった。
そんなふうにして現在は順風満帆な鐘崎であったが、ここ最近で請け負った仕事に少々頭を悩まされるといった事態に直面していた。
依頼の内容としてはごく普通の、財閥系企業の社長から海外のクライアントと規模の大きい取引きがあるので、護衛方々警備をお願いしたいというものだった。
取引自体は無事に済み、取り立てて問題はなかったのだが、鐘崎にとって”厄介”と思えることは、社長の娘であり、現在は父親の秘書をしているという女の存在であった。
彼女は二十代の半ばだそうで、大学院を卒業すると同時に父親の秘書として入社したらしい。名を三崎繭といって、外見だけでいえばなかなかに見目美しいおとなしそうな感じの女性であった。だが、そんな見た目とは相反して初対面からやたらと熱い視線を送ってくるようなところがあり、必要以上に連絡を取ってきたり、父親には内緒で食事に誘ってきたりするのが煩わしく思えていたのだ。どうやら、仕事を介して接する内に、個人的に鐘崎のことを気に入ってしまったようである。その執拗ぶりは今や組の若い衆たちにまで知れ渡っていて、案の定か幹部の清水が少々苦い顔つきで若頭・鐘崎の元へとやって来た。
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