極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「あの、若……ちょっとよろしいでしょうか?」
「清水か。どうした?」
「実は先程、例の財閥系企業の三崎社長様宅に報酬の受け取りに伺って来たのですが……」
 言いづらそうに口籠る清水の手には、何やら招待状とおぼしき封書が握られている。彼の困ったような表情を見て、話を聞く前から鐘崎も軽い溜め息がこぼれてしまった。
「それは? また例の娘が何か言ってきたってわけか?」
 清水は申し訳なさそうにしながらも、手にしていた封書を差し出した。
「華道展の招待状だそうです。お嬢さんが習っている教室で年に一度のグループ展が催されるとかで、是非とも若に来て欲しいと……社長からも頼まれまして」
「あの社長も娘には弱いということか……。で、いつだ」
「今週末の土日だそうです。場所は東京駅の隣にあるイベントホールです」
 差し出された招待状を受け取り、中を一瞥する。
「――土日か。仕方がねえ、一応の祝儀を包んで顔を出すしかねえだろうな」
「は……。申し訳ございません」
「お前が謝る必要はねえさ。あの社長とは親父も多少の顔見知りだからな。無視もできねえだろう」
 その父親の方は現在海外からの依頼で動いていて留守である。組の代表としてという意味でなら、鐘崎本人が出向くしかないわけなのだ。
「あの……、姐さんにもご同行していただいては如何でしょう」
「紫月を――か? いや、あいつは今、実家の道場で開かれている夏合宿を手伝いに行っている最中だ。手を煩わせることもねえだろう」
「ですが……」
 清水としては、この際姐さんを直接会わせて、例の娘に諦めてもらった方が良いのではと思ったようだ。
 だが、鐘崎はその案を否定した。
「あの娘に紫月を紹介したところで、逆上されても厄介だ。この前の周焔の件もある。紫月が要らぬ逆恨みに巻き込まれねえとも限らん」
 友の周焔の伴侶である雪吹冰が、周の元恋人だと名乗る唐静雨という女に絡まれたことは記憶に新しい。もしも今回似たようなことが起これば、紫月の身にも危険が及ばないとも限らない。なるべくならばそのような事態は避けたいといったところなのだ。
「だが、俺に嫁――伴侶――がいるということははっきりと伝えるつもりだ。どうせ社長も顔を出すんだろうから、親父と娘の両方にそう明かせばさすがに諦めてくれるだろう」
「だといいのですが……」
「心配するな。こちらとしても仕事以外でズルズルと関係を続けるつもりもねえしな。きちんと断るさ。それより誰か二、三人、同行する者を見繕っておいてくれ」
「では私と橘、春日野あたりで如何でしょう」
「それでいい。よろしく頼む」
「かしこまりました」
 清水は丁寧に頭を下げてこの場は引き下がったものの、願わくはこれ以上厄介な事態にならぬようにと祈るばかりであった。
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