258 / 1,212
厄介な依頼人
7
しおりを挟む
「粟津の兄様ったらエッチなんだからぁ!」
「ほんとね! 際どいお答えだわ」
女たちはヤンヤヤンヤと興奮気味で笑い合うと、待ち切れないといったふうに今度は鐘崎に視線を向けた。
「ねえねえ、鐘崎さんはどうかしら?」
「あまり考え込まないで、第一印象でパッと思いついた人でよろしいのよ!」
「はぁ……」
正直なところ面倒と言えなくもないが、これも付き合いの一環である。致し方なく、鐘崎は言われた通りに思い浮かんだ名前を挙げた。
「そうですね、赤は氷川、白は冰。青は源さんかな。黒は親父で、紫は――」
鐘崎はそこで一旦言葉をとめると、フッとやわらかに瞳を細めた。”紫”で思い付くのは言わずもがな――伴侶の紫月以外にないからだ。
だが、ここで愛しい者の名前をひけらかす必要はないと思ってか、無意識に言葉に出さずに呑み込んだのだ。ただ、脳裏に思い浮かべただけで表情には愛しい想いが表れてしまったのか、案外鋭い女たちの関心をそそってしまったようだ。
「やだぁ、鐘崎さん! 紫はどなたなんですかー?」
「そうよ、もったいぶらずに教えてくださいな!」
急かされたが、ここで素直に教える義理もない。鐘崎はスマートにごまかしたのだった。
「紫は――まあ、該当なしということにしておきましょう。黄色も思い当たらないかな」
「ああーん、もう焦らすなんて憎らしいんだからぁ!」
女たちにとっては初めて聞く名前ばかりであるが、それがどんな人物なのかは結果を暴露しながら訊けばいいと思っているようだ。とにかくは鐘崎とこうして一緒の話題で盛り上がれることが楽しくて仕方ないのだろう。
「それで、結果はどうなんだい?」
帝斗が笑いながら突っ込むと、女たちは得意げに答えを披露してみせた。
「赤は結婚したい人、白は憧れの人。黒は絶対的存在の人で、青は恋人にしたい人。紫は……性的欲求を満たしたい相手!」
キャアー! と湧きながら盛り上がる。
「粟津の兄様は当分ご結婚は先のようね! だって赤のイメージの人はいらっしゃらないってことですもの!」
「おいおい、そいつは酷い言い草じゃないか。本当に当たるのかい? この占い」
「もちろんよ! 残念でしたわね、兄様!」
皆で帝斗をからかって遊ぶ中、女たちの興味の本命は鐘崎である。
「じゃあ、鐘崎さんの”赤”のお相手は? どんな方ですの?」
もしも鐘崎が”赤のイメージは繭だ”と答えれば、相思相愛と囃し立てて盛り上がるつもりだったのだが、彼が挙げたのは氷川という知らない名前だった。その氷川とはいったいどんな人物なのだろうと興味津々なのである。もしもそれが女性だったらと思うと、繭の手前であるし、分が悪いと思う反面、心の隅では期待感が無いとはいえないのは悲しきかな、本能だろうか。
「ほんとね! 際どいお答えだわ」
女たちはヤンヤヤンヤと興奮気味で笑い合うと、待ち切れないといったふうに今度は鐘崎に視線を向けた。
「ねえねえ、鐘崎さんはどうかしら?」
「あまり考え込まないで、第一印象でパッと思いついた人でよろしいのよ!」
「はぁ……」
正直なところ面倒と言えなくもないが、これも付き合いの一環である。致し方なく、鐘崎は言われた通りに思い浮かんだ名前を挙げた。
「そうですね、赤は氷川、白は冰。青は源さんかな。黒は親父で、紫は――」
鐘崎はそこで一旦言葉をとめると、フッとやわらかに瞳を細めた。”紫”で思い付くのは言わずもがな――伴侶の紫月以外にないからだ。
だが、ここで愛しい者の名前をひけらかす必要はないと思ってか、無意識に言葉に出さずに呑み込んだのだ。ただ、脳裏に思い浮かべただけで表情には愛しい想いが表れてしまったのか、案外鋭い女たちの関心をそそってしまったようだ。
「やだぁ、鐘崎さん! 紫はどなたなんですかー?」
「そうよ、もったいぶらずに教えてくださいな!」
急かされたが、ここで素直に教える義理もない。鐘崎はスマートにごまかしたのだった。
「紫は――まあ、該当なしということにしておきましょう。黄色も思い当たらないかな」
「ああーん、もう焦らすなんて憎らしいんだからぁ!」
女たちにとっては初めて聞く名前ばかりであるが、それがどんな人物なのかは結果を暴露しながら訊けばいいと思っているようだ。とにかくは鐘崎とこうして一緒の話題で盛り上がれることが楽しくて仕方ないのだろう。
「それで、結果はどうなんだい?」
帝斗が笑いながら突っ込むと、女たちは得意げに答えを披露してみせた。
「赤は結婚したい人、白は憧れの人。黒は絶対的存在の人で、青は恋人にしたい人。紫は……性的欲求を満たしたい相手!」
キャアー! と湧きながら盛り上がる。
「粟津の兄様は当分ご結婚は先のようね! だって赤のイメージの人はいらっしゃらないってことですもの!」
「おいおい、そいつは酷い言い草じゃないか。本当に当たるのかい? この占い」
「もちろんよ! 残念でしたわね、兄様!」
皆で帝斗をからかって遊ぶ中、女たちの興味の本命は鐘崎である。
「じゃあ、鐘崎さんの”赤”のお相手は? どんな方ですの?」
もしも鐘崎が”赤のイメージは繭だ”と答えれば、相思相愛と囃し立てて盛り上がるつもりだったのだが、彼が挙げたのは氷川という知らない名前だった。その氷川とはいったいどんな人物なのだろうと興味津々なのである。もしもそれが女性だったらと思うと、繭の手前であるし、分が悪いと思う反面、心の隅では期待感が無いとはいえないのは悲しきかな、本能だろうか。
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる