極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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「鐘崎君、お呼び立てしてすまないね」
「いえ――、それでご用件とはどういったことでしょう?」
「ま、まあ……まずは一杯如何かね?」
 どうやらバーの中でもほぼ個室といった感じの部屋なので、VIP専用なのだろう。遠慮がちに黒服が様子を窺っているので、鐘崎はとりあえずのオーダーを告げた。
「バーボンをロックで」
「かしこまりました」
 その後、オーダーの品が運ばれてくるまでの間はさして意味もなく当たり障りのない世間話が続く。
「お待たせ致しました、バーボンのロックでございます」
 黒服が下がっていくのを見届けると、社長は少々言いづらそうにしながらもようやくと要件を切り出した。
「実は――娘の繭のことなんだが……」
 鐘崎はやはりそういった話向きか――と、心の中で溜め息を漏らす。だが、表情にはおくびにも出さずに平静を装って続きを待った。
「どうやら娘はキミに惹かれているようでね。案外……いや、かなり真剣に想っているようなんだ」
 そう言われても、鐘崎にはどうすることもできないし、またする気もないというのが実のところだ。
「社長さん、以前にもお話しましたが私には女房がおります。お嬢さんのお気持ちにお応えすることはできません」
 キッパリと断った鐘崎に、社長の方は苦笑しながらグラスを口へと運んだ。
「――そのことなんだが……。娘の繭があまりにも思い詰めているようなんで、不躾とは思ったが少々キミのことを調べさせてもらったんだ」
 さすがに眉根を寄せずにはいられない言い分だ。
「調べたとおっしゃいますと?」
「その……なんだ。キミに奥方がいらっしゃるというのは……本当のことなのか? キミはいい男だし、方々からお声が掛かることも多いんだろうと思う。そのたびに断るのが大変だから……というような理由で、奥方がいるということにしておられるんじゃないのかと思ってね」
 つまり、カモフラージュで対外的にそういう形にしているだけではないのか――と言うのだ。鐘崎は間髪入れずにそれを否定した。
「そういったことはありません。女房がいるのは事実ですし、世間に嘘を触れ回る必要もありません」
「はぁ……。だが、しかし……聞くところによると、キミが奥方だとおっしゃっているお相手は……男性だという噂も耳にするんだが……それは本当なのかね?」
 この手の質問には慣れっこだが、正直なところこの社長に訊かれるのは面倒と思う。だからといって嘘を言う筋合いもないし、鐘崎は堂々とうなずいた。
「本当です。確かに女房は男性ですが、私は彼を心から愛していますし、世間体という意味でカモフラージュをしているということも一切ありません。もちろん我々の仲を隠すつもりもありません」
 あまりにも堂々たる様子に、社長の方は驚きで目を剥いている。が、さすがにそれらを非難しようとか否定しようという素振りは見られなかった。
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