極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
275 / 1,212
厄介な依頼人

24

しおりを挟む
「どうされたのかしら、繭さん」
「ボーイズラブがお嫌いだったのかしらね?」
「……っていうよりも、まだこの間の殿方のことで気が晴れないんじゃなくて?」
「ああ、鐘崎さんでしたっけ? あの方に奥様がいらしたことがきっとショックだったんですわ」
「そういえば、あの華道展以来ずっとお教室もお休みしてらしたものね。お気の毒だわねえ……」
「早く立ち直って、元気になってくださるといいのだけれど」
 女友達がそんな心配をしてくれているとは露知らずの繭は、突然怒鳴ってしまったことでより一層の自己嫌悪に陥ってしまっていた。家に帰れば父とも気まずい空気が続いているし、外に出ればこの有様だ。もう何もかもが嫌になってしまい、物事がすべて悪い方へ悪い方へと転がってしまう気がしていた。
「……それもこれも……みんなあの男のせいよ……」
 ”あの男”というのは、鐘崎の伴侶である紫月のことだ。
「いったい……どんなヤツなのかしら! 鐘崎さんをたぶらかして、男同士で結婚だなんて! 図々しいったらないわ! 何もかもあいつのせいよ……!」
 繭のどす黒い感情は、まだ見ぬ紫月に向かって一直線に渦を増していくようだった。
「どんな手を使って鐘崎さんに近付いたのか調べて上げてやるわ! 絶対に渡さない……。鐘崎さんをあの男から救ってあげられるのはアタシしかいないんだから……!」
 怒り任せで顔を真っ赤にしながら都会の路地を早足で駆け抜ける――繭の瞳は負の感情で闇色に揺れていた。



◇    ◇    ◇



 事件が起こったのはそれから一週間ほど後の週末だった。
 この日はちょうど鐘崎の邸に周焔と冰が遊びに来ていた。中秋の名月を控えて、皆で月見の会を催そうという話になり、その相談も兼ねて集まっていたのだ。
「俺と冰もお陰様で入籍できたことだし、今回は香港からお袋たちや兄貴の嫁さんを招待したいと思っているんだ。親父と兄貴は仕事の都合でまだどうなるか分からんが、女性連中は日本の情緒を味わえるって楽しみにしてるようなんでな」
 周の話を受けて、紫月が嬉しそうに思い付いた提案を口にする。
「そいつはいいな! ならさ、ウチの庭に赤い毛氈とかでっけえ傘とか出してさ、日本情緒たっぷりにすりゃ最高じゃね? ほら、よく京都のお寺とかで団子とか食えるような茶店風のやつ」
「ああ、茶会とかで見掛けるあれか」
「そうそう、それ! あのセットを調達しようぜ! なぁ、遼?」
「そうだな。この際、薄茶でもたてて本格的な茶会ふうにするのもいいな」
 周と冰が入籍して初めて姑たちを招く絶好の機会である。鐘崎も紫月も思い付く限りのもてなしをしたいと思って意欲的なのだ。
 特に紫月の方は同じ嫁という立場に立って、冰が姑たちに喜んでもらえるように手助けしたいと張り切っていた。
「な、な、お袋さんたちと義姉さんに着物を着てもらうのはどうだ? ススキとか秋の花を飾ってさ。団子も三宝に飾って、ちゃんと十五個乗せてさ! 固い作り物ののじゃなくて、ちゃんと食えるやつ」
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...