極道恋事情

一園木蓮

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厄介な依頼人

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 その夜、鐘崎と紫月は久しぶりに戻ってきた平穏な日常の夜を過ごしていた。いつものように鐘崎は風呂上がりの浴衣姿で気に入りの焼酎を嗜んでいる。甘党の紫月はコーヒーカルーアをベースにしたカクテル風味のグラスを傾けていた。
「すまなかったな紫月――。組員たちも心酔していたが、本当に……お前には頭が上がらねえ」
 橘たちから昼間の出来事を聞いた鐘崎は、驚きつつも改めて自らの伴侶の器の大きさに、しみじみと感じ入っていたのだった。そんな紫月は照れ臭そうにしながらも、穏やかにつぶやいた。
「本当はさ、あの娘がいろいろと事件を起こす前に俺が直接会って話を聞いてやれりゃ良かったのかもとも思ったけど。まあ、でもこのタイミングで正解だったのかも知れねえ。あの娘も自分がおかしなことをしてるって分かっていながら、引っ込みがつかなくなっちまってただけなんだよなぁ。お前への恋が叶わなかったのは気の毒だと思うけど、今後の人生のことを考えたら彼女にとって必要な道筋だったかもだしな。深層の箱入り娘として育ったが故に、上手く感情のコントロールができなかっただけさ」
 紫月はそう言って笑うが、鐘崎にとってはそんなふうに包み込んでやることができる大らかさがますます愛しくて堪らなく思えるのだった。
「――お前、妬いたりはしなかったのか?」
 思わずそう訊いてしまった。
「正直なことを言っちまうと、俺がもしも逆の立場だったら……きっとひどく妬いちまったと思う。ヘタすりゃ、相手を脅すか、例えばそれが野郎なら間違いなく手を上げてただろう」
「おいおい、遼……」
「これは冗談でも何でもねえ。お前に粉掛けられたりしたら……俺はいつでも修羅になれる自信があるってくらいだ」
「修羅ってお前……」
 紫月は可笑しそうに腹を抱えているが、鐘崎にとっては満更嘘でもないのだ。
「だが、今回のお前を見ていたら……自分がどれほどガキなんだろうって思えてな。少し情けなくもなっちまった」
 苦笑する鐘崎を横目にしながら、言葉通りに肩を落としている様子に紫月は穏やかに微笑んだ。
「ま、けどお前はそれでいんじゃね? ンだってさ、例えばライオンの雄ってのは、てめえの群れや縄張りを守る為には躊躇なく牙を剥いて闘うだろ? 雌はそのお陰で安心して獲物を探しに出掛けたり子育てしたりできるわけだ。適材適所っての? お前がいつでも牙を剥いて守ってくれるって思うから俺は安心していられるんだからさ」
「――紫月」
 鐘崎は、もう堪らずに愛しい伴侶の肩を鷲掴んでは懐の中に抱き締めた。そのまま額と額をコツリと合わせ、互いの視界に入りきらなくなった視線がみるみると熱を帯びていく――。
「――キス、したい。紫月――、いいか?」
「……ッ、ンだよ……いつもは……ンなこと聞きもしねえくせに……」
「ああ、そうだな――。だが、今夜は聞きたかった。お前があまりにも――尊くて、気高くて」
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