310 / 1,212
厄介な依頼人
59
しおりを挟む
同じ頃、空港に向かう車中では紫月がやれやれと苦笑いに肩をすくめていた。
「ったくよぉ、お前ときたら早速に雄ライオン丸出しなんだから。初対面でタマ取るとか、マジであの若いのがビビってたじゃねっか」
「事実を言ったまでだ。間違ってもお前に粉掛けたりしねえように最初に釘を刺すのは亭主の役目だからな」
鐘崎はまるで悪びれたところもない堂々ぶりで深くシートに身を委ねている。そんな様子に呆れつつも、子供のように嫉妬心を剥き出しにする愛情がくすぐったくもあって、ついフっと笑みがこぼれてしまう紫月であった。
「俺、愛されてるなぁ」
クスクスと笑いながら逞しい肩先に寄り掛かる。そうされて気を良くしたのか、深くもたれていた身を起こすと、鐘崎は紫月の肩を抱き寄せて、そのまま額に軽い口付けを落とした。
「当然だ。この世の誰よりも何よりも愛していると云ったろうが」
「あー、うん……そうだったな」
「お前は?」
「え?」
「お前はどうなんだ。この世の誰よりも何よりも――」
「あー、はいはい。もちろんお前だけをあ……あー、その……あ……いして……」
――ッ!?
『愛してるって――』その言葉は言わせてもらえなかった。鐘崎のしっとりとした形のいい唇に押し包まれてしまったからだ。
「……んー、んー……んがー! 遼ッ……!」
まだ午前中だというのに、まるでベッドの中に引きずり込まれるような濃厚なキスを食らって、紫月は目を白黒とさせてしまった。
「バッキャロ! ハナさんもいるってのに……てめ、こら……調子ブッこいてんじゃねっつのー」
ハナさんというのは鐘崎組で専属の運転手をしているベテランで、花村という初老の男のことだ。主に鐘崎か父親の僚一が乗る車を担当するベテラン中のベテランである。鐘崎が幼い頃からずっと仕えてくれているので、邸の要である源次郎同様、家族のような存在でもある男だった。
「いいじゃねえか、俺たちは夫婦なんだから。なぁ、ハナさん」
「おっしゃる通りですな! ご夫婦円満は組にとってもたいへん重要なことです」
花村まで味方につけんと、まさに悪びれもせずの堂々ぶりに閉口させられる。その花村の方がよく分かっているのか、頼もしそうに瞳に弧を描いて微笑む視線がバックミラー越しに確認できて、紫月はガラにもなく頬を真っ赤に染め上げてしまった。
「……ったく! この獰猛ライオンが!」
プリプリと頬を膨らませるも熟れた頬は隠せない。
「獰猛になるのは今夜までお預けだ。楽しみにしてろよ?」
「……はぁッ? ったく、性懲りもねえ……」
相変わらずの俺様ぶりで口角を上げた鐘崎の鳩尾にガツンと一発拳をくれながら、またひとたびプゥと頬を膨らませた紫月であった。
◇ ◇ ◇
「ったくよぉ、お前ときたら早速に雄ライオン丸出しなんだから。初対面でタマ取るとか、マジであの若いのがビビってたじゃねっか」
「事実を言ったまでだ。間違ってもお前に粉掛けたりしねえように最初に釘を刺すのは亭主の役目だからな」
鐘崎はまるで悪びれたところもない堂々ぶりで深くシートに身を委ねている。そんな様子に呆れつつも、子供のように嫉妬心を剥き出しにする愛情がくすぐったくもあって、ついフっと笑みがこぼれてしまう紫月であった。
「俺、愛されてるなぁ」
クスクスと笑いながら逞しい肩先に寄り掛かる。そうされて気を良くしたのか、深くもたれていた身を起こすと、鐘崎は紫月の肩を抱き寄せて、そのまま額に軽い口付けを落とした。
「当然だ。この世の誰よりも何よりも愛していると云ったろうが」
「あー、うん……そうだったな」
「お前は?」
「え?」
「お前はどうなんだ。この世の誰よりも何よりも――」
「あー、はいはい。もちろんお前だけをあ……あー、その……あ……いして……」
――ッ!?
『愛してるって――』その言葉は言わせてもらえなかった。鐘崎のしっとりとした形のいい唇に押し包まれてしまったからだ。
「……んー、んー……んがー! 遼ッ……!」
まだ午前中だというのに、まるでベッドの中に引きずり込まれるような濃厚なキスを食らって、紫月は目を白黒とさせてしまった。
「バッキャロ! ハナさんもいるってのに……てめ、こら……調子ブッこいてんじゃねっつのー」
ハナさんというのは鐘崎組で専属の運転手をしているベテランで、花村という初老の男のことだ。主に鐘崎か父親の僚一が乗る車を担当するベテラン中のベテランである。鐘崎が幼い頃からずっと仕えてくれているので、邸の要である源次郎同様、家族のような存在でもある男だった。
「いいじゃねえか、俺たちは夫婦なんだから。なぁ、ハナさん」
「おっしゃる通りですな! ご夫婦円満は組にとってもたいへん重要なことです」
花村まで味方につけんと、まさに悪びれもせずの堂々ぶりに閉口させられる。その花村の方がよく分かっているのか、頼もしそうに瞳に弧を描いて微笑む視線がバックミラー越しに確認できて、紫月はガラにもなく頬を真っ赤に染め上げてしまった。
「……ったく! この獰猛ライオンが!」
プリプリと頬を膨らませるも熟れた頬は隠せない。
「獰猛になるのは今夜までお預けだ。楽しみにしてろよ?」
「……はぁッ? ったく、性懲りもねえ……」
相変わらずの俺様ぶりで口角を上げた鐘崎の鳩尾にガツンと一発拳をくれながら、またひとたびプゥと頬を膨らませた紫月であった。
◇ ◇ ◇
25
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる