極道恋事情

一園木蓮

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極道の姐

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「本人にも再三断ってあるし、以後は相手にするな」
「そうでしたか。若も親父さんもご存知だったとは……それをうかがって安心致しました」
「お前にも余計な気を揉ませちまってすまない。とにかくあの女のことは放置でいい。今後もまだしつこく何か言ってくるようなら、君江ママからも釘を刺してもらうさ」
 鐘崎の言葉にホッと安堵したものの、清水としては今しばらくは警戒しておく必要があると思っていた。

 実にそう時を待たずして清水の警戒心を遥かに上回る事態が訪れることになろうとは、この時はまだ誰も想像すらつかなかったのである。

 例のクライアントから清水宛てに電話が入ったのは、その数日後のことだった。当然、用向きはサリーというホステスの後見についての催促だ。
「誠に恐縮ながら、そのお話はお受け致しかねます。組としてはサリーさんご本人にはっきりとお断り申し上げたとのことですので」
 清水がそう伝えると、電話の向こうからは残念そうな溜め息が聞こえてきた。
 このクライアントは国内でも有数の建築会社を経営していて、誰でもコマーシャルなどで名を聞いたことのある大企業のトップでもある。そんなに後見を望むなら、組を頼らずともクライアント本人が面倒を見てやればいいだけの話であろう。それとなく清水がその旨を伝えたが、相手は苦笑まじりで更に溜め息を漏らした。
「そうしたいのは山々なのですが、何如せん私は妻子のある身でしてな。妻は身持の固い女ですし、社として一ホステスを贔屓にするならまだしも、個人的に肩入れするとなると一存ではなかなか思うようにならないところなのですよ」
 分からなくもないが、それを言うならば鐘崎組とて同じことである。
「我々の若頭にも姐さんがおります。それ以前に組としてはそういったお付き合いは致すつもりもございませんし、それは組長も若頭も同意見です。サリーさんにはそうお伝えいただければと思います」
「はぁ、そうでございますか。残念だが致し方ありませんな」
 クライアント自身はそう言って引き下がってくれたが、問題はサリーである。通話を終えた後で独りごちる。
「しかし、若にそんなアプローチをし続けていたとはな。俺の目が節穴なのか、サリーのやり口がよほど狡猾なのか……。これは今まで以上に目を光らせんとな」
 鐘崎の仕事にはこれまでもほぼ同行してきたし、ジュエラにも何度もお供したわけだが、まさか廁――つまりは化粧室だが――、そんなところにまで追い掛けて行っていたとは予想外だった。
 この後、厄介なことにならなければいいのだがと、清水は溜め息が隠せなかった。



◇    ◇    ◇


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