極道恋事情

一園木蓮

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極道の姐

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『何だ、気付いてやがったってか? 狸寝入りなんぞ、しゃらくせえことしやがって!』
 どうやら部屋に入って来たのは男が一人のようである。女の声は聞こえないことから、まずは様子見に男が一人でやって来たと思われる。
『てめえはいったい誰だ。何の目的で俺たちをこんなところに連れて来た』
 周が訊いている。声の調子からして、落ち着いているし、息も上がっていない。やはりまだ怪我などは負わされていないようだ。
『目的なんぞすぐに分かるさ。しっかし……お前らも案外チョロいのな? 香港を仕切ってるマフィアのファミリーだなんていうから、ちっとは骨のあるヤツらかと思ってたら! 警戒して損しちまったぜ!』
 男が鼻で笑っている。だが、次に返された周の言葉でその顔色は一転したようだった。
『は、情けねえ。こんなふうに簀巻きにして人を縛り上げなきゃ、堂々と話もできねえようなヤツに言われたかねえな』
 それこそ鼻で嘲笑し返す。言葉通りなら、縄か何かで身体をグルグル巻きに縛られているといったところか。
『ンだとッ! ナメてんじゃねえぞ、グォラ!』
 男が殺気だった声で怒鳴ると同時に、ドカッという嫌な音が続く。立て続けに頬を平手打ちか、拳で殴り付けるような鈍音が数発飛び込んできた。
「白龍……ッ」
 集音器の前で冰が思わず狂気のような声をあげる。周が殴られただろうことは明らかだからだ。
 少しすると、切れた唇の端から血を吐き出すような『プッ』という音がし、若干苦しげな周の声が聞こえてきた。
『だから情けねえってんだ。人形相手のサンドバックくれえしかできねえヘボ野郎が!』
 つまり、縄などで拘束でもしないと、殴り合いのひとつもできないクズだと言っているのである。
「白龍……お願い……煽らないで……!」
 殴られたくらいではへこたれない気の強さは周ならではだろうが、暴力に慣れていない冰からすれば気が気でないのだろう。ガクガクと身体を震わせながら、まるで自身が張り手を食らってでもいるかのように瞳をギュッと瞑って今にも泣き出さん勢いだ。そんな冰の肩をガッシリと抱き寄せながら、紫月は彼をなだめた。
「大丈夫だ。氷川はこんなことくれえで根を上げるようなヤワじゃねえ」
 集音器の向こうでは周とロンらしき男のやり取りが続いている。
『はん! どうとでもほざいてろ! 今に吠え面かくのはてめえらの方なんだからな!』
 男が威嚇を口にするも、周の方はまるで堪えていないようだ。それどころか、ひどく落ち着き払った様子で薄ら笑いでも浮かべているような気配が漂ってくるのが分かる。
『質問に答えろ。俺らをここへ連れて来たワケってのを聞かせてもらおうじゃねえか。こちとら理由も分からず、見ず知らずのてめえに拉致られたままじゃ寝覚めが悪くて仕方ねえ。それを訊く権利くれえはあると思うがな』
 周がそう言うと、ロンらしき男は勝ち誇ったようにニヤけた声音で冷笑してみせた。
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