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極道の姐
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案の定、上手いこと口車に乗せられたらしい男が、訊きもしないことまでベラベラと自慢げに暴露し出したようだ。
『熱を上げてきたのは俺じゃなく静雨の方さ。前に自分を振って地獄に陥れた男が許せねえって抜かすからよ、だったら俺が一肌脱いでやろうと思ったわけだ』
『ほう? お前さんも随分とまた人の好いこったな。女の報復の片棒担いでこんな山奥の採掘場にまで出向いて拉致とはな? 節介なことを言うようだが、経費も労力も相当かかったんじゃねえのか?』
『まあ、人が好いのは生まれつきさ。だが、静雨に加担してやったのはそれだけが原因ってわけじゃねえんだ。いくら何でも俺だって女の為だけにこんだけのデケえ仕事はやらかさねえよ』
『つまり、今回の拉致は他にも何かお前さんにメリットがあったってわけか?』
『その通りよ!』
『ほう? それこそどんな理由か聞かせてもらいてえもんだな』
『ま、そこまで言うなら教えてやらねえでもねえけどな。聞いて驚くなよ! 静雨の目的は弟のてめえだが、俺の獲物は――』
男はそこで一旦言葉をとめると、今度は兄の風の方をチラッと見やりながら憎々しげに口角を上げてみせた。
『俺の目的は……てめえだ、周風! さっきっからずっと弟の方にしゃべらせて黙ったままだが、よもや俺の顔を忘れたわけじゃあるめえな!』
中指を立てながらニヤけ面で威嚇する。
男の言葉に驚いたのは、周風本人はもとより、集音器の前で固唾を呑んでいた紫月に冰、隼や僚一、源次郎と李ら全員であった。
『よもや俺の顔を忘れたわけじゃあるめえな』という男の言葉に、名指しされた風本人は首を傾げてでもいるのだろうか、すぐには返答しないところをみると、心当たりがないのだろうと思えた。
風が黙ったままでいると、男の方は更に気を逆撫でられたといったわけか、今度は風に向かって怒号を浴びせ始めた。
『その様子じゃまったく覚えがねえってツラだな! 相変わらず腹の立つ野郎だ!』
ミシッという嫌な音は、男が風の胸ぐらか、あるいは髪でも掴んだといったところだろうか。集音器の向こうからは荒い息遣いと共に双方が睨み合うような気配が漂ってきた。
『あの時もそうだったな! そうやってスカしたツラして俺から女を取り上げやがった!』
男の言葉にようやくと風が相槌を口にする。
『――あの時だ? いったい何のことだ』
風の声音も周と同じくえらく落ち着いていて、動揺の気配は感じられない。会話は続いた。
『てめえは覚えちゃいねえようだが、俺は以前ニューヨークでてめえに会ってる。レキシントン通り、九十丁目のレストランだ! これだけ言っても思い出さねえか!』
『……アッパーイーストのレストランだ?』
『熱を上げてきたのは俺じゃなく静雨の方さ。前に自分を振って地獄に陥れた男が許せねえって抜かすからよ、だったら俺が一肌脱いでやろうと思ったわけだ』
『ほう? お前さんも随分とまた人の好いこったな。女の報復の片棒担いでこんな山奥の採掘場にまで出向いて拉致とはな? 節介なことを言うようだが、経費も労力も相当かかったんじゃねえのか?』
『まあ、人が好いのは生まれつきさ。だが、静雨に加担してやったのはそれだけが原因ってわけじゃねえんだ。いくら何でも俺だって女の為だけにこんだけのデケえ仕事はやらかさねえよ』
『つまり、今回の拉致は他にも何かお前さんにメリットがあったってわけか?』
『その通りよ!』
『ほう? それこそどんな理由か聞かせてもらいてえもんだな』
『ま、そこまで言うなら教えてやらねえでもねえけどな。聞いて驚くなよ! 静雨の目的は弟のてめえだが、俺の獲物は――』
男はそこで一旦言葉をとめると、今度は兄の風の方をチラッと見やりながら憎々しげに口角を上げてみせた。
『俺の目的は……てめえだ、周風! さっきっからずっと弟の方にしゃべらせて黙ったままだが、よもや俺の顔を忘れたわけじゃあるめえな!』
中指を立てながらニヤけ面で威嚇する。
男の言葉に驚いたのは、周風本人はもとより、集音器の前で固唾を呑んでいた紫月に冰、隼や僚一、源次郎と李ら全員であった。
『よもや俺の顔を忘れたわけじゃあるめえな』という男の言葉に、名指しされた風本人は首を傾げてでもいるのだろうか、すぐには返答しないところをみると、心当たりがないのだろうと思えた。
風が黙ったままでいると、男の方は更に気を逆撫でられたといったわけか、今度は風に向かって怒号を浴びせ始めた。
『その様子じゃまったく覚えがねえってツラだな! 相変わらず腹の立つ野郎だ!』
ミシッという嫌な音は、男が風の胸ぐらか、あるいは髪でも掴んだといったところだろうか。集音器の向こうからは荒い息遣いと共に双方が睨み合うような気配が漂ってきた。
『あの時もそうだったな! そうやってスカしたツラして俺から女を取り上げやがった!』
男の言葉にようやくと風が相槌を口にする。
『――あの時だ? いったい何のことだ』
風の声音も周と同じくえらく落ち着いていて、動揺の気配は感じられない。会話は続いた。
『てめえは覚えちゃいねえようだが、俺は以前ニューヨークでてめえに会ってる。レキシントン通り、九十丁目のレストランだ! これだけ言っても思い出さねえか!』
『……アッパーイーストのレストランだ?』
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