極道恋事情

一園木蓮

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極道の姐

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『そうだ! 十五年前、てめえは確か留学生だとかって噂だったが、当時俺はウェイターとしてあの店で働いてたんだ! てめえは授業の帰りによくダチと連れ立って顔を出してた! あの頃から色男ぶりを発揮してやがってイケすかねえ野郎だと思っちゃいたがな!』
 そこまで言われて、風は初めてそのレストランのことだけは思い出したようである。
『ああ、あの飯屋か。確かイタリアンが美味くて雰囲気がいい店だったな』
『そうだ! あの頃……俺は親戚の家を追い出されて金が必要だった。なるべく給金が高い所と思って……あの店に勤めるのだって……品格がどうとか身なりがどうとか厳しいこと言われて、それでも精一杯自分をねじ曲げてやっと雇ってもらえたんだ! そこで俺は何度もてめえに料理や酒を運んでやった! てめえらボンボン育ちのお坊ちゃんにゃ、一ウェイターのことなんざ頭の隅にも残っちゃいねえんだろうがな!』
 男が掴んでいた風の胸ぐらを離したのか、ギシりと椅子の軋むような音がした。
『イケすかなかろうが客は客だ。てめえがただ飲んだり食ったりしてるだけなら何とも思わなかったさ。だが、あの日は違った。前々から俺が気に入ってた女を口説いてた時だ……てめえが割り込んで来て、いいカッコしやがったんだ!』
 要は女を横取りされたと言いたいらしい。風は少し考え込んでいたようだが、ようやくと思い当たったのか、『ああ』と言って薄く笑った。
『そういやそんなことがあったな。あの時のウェイターか』
『やっと思い出しやがったか!』
『ああ、思い出した。だが、俺は別に割り込んだわけじゃねえ。たまたまトイレか何かに立った時に側を通り掛かったら、女が助けを求めて俺の背に隠れた。確かそんな経緯じゃなかったか?』
 おそらくはこの男にしつこくされて困っていたのだろう。風としては逃げてきた女にただまとわりつかれたというだけだったのだが、それを逆恨みしているといったところか。
 男は『チッ!』と舌打ちをすると、更に罵倒を続けた。
『それだけじゃねえ! てめえがあの店に来るせいで、俺がカモにできると思った女は皆てめえに靡いていった! 付き合うならあんな人がいい、俺みてえなのはお呼びじゃねえと散々笑い者にされた!』
『カモにできるだと? てめえはそんな理由で女を口説いてたってのか?』
『悪ィかよ! こちとら生活掛かって必死だったんだ! 一石二鳥を狙ってどこが悪い!』
『つまり、金目当てに引っ掛けた女で色の方も楽しもうって心づもりだったということか?』
『ああ、そうだ! それなのに……女たちからはコクる前にもっと自分を磨けだのと嘲笑いされた! それもこれも全部てめえのせいだ! ちょっと金持ちでツラがいいからって、世の中の女は全部てめえのモンかよ! てめえのせいで俺は振られ続けて、挙句はあの店でストーカー野郎よばわりだ! 店もクビにさせられて露頭に迷った……。恨んでも恨み切れねえ悔しい思いをしてきたってのに、てめえは俺の顔さえ覚えちゃいねえ。いつかぶちのめしてやりてえと思っていたが、その内てめえは留学を終えて、何事もなかったように消えやがった。散々煮湯を飲まされた俺の気持ちなんか分からねえだろう!』
 つまり、完全に自分勝手な逆恨みである。風はもとより、話を聞いていた弟の周も思わず呆れさせられてしまい、すぐにはどう返答してよいやら言葉も出ずといったところだった。
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