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極道の姐
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「振られたことにして……って、冰君、もしかしてまた芝居を打つつもりなのか?」
紫月が訊くと、冰はそうだと言ってうなずいた。
「あれからもうだいぶ時が経っています。その間に俺も白龍に愛想を尽かされて振られてしまったと言うんです。彼を恨んでいるので是非とも仲間に入れて欲しいと訴えて、白龍たちのいる部屋まで辿り着ければと思います」
「なるほど――。唐静雨の同情心をくすぐろうというわけか――。だが、今回の計画を冰がどうやって知ったのかというところは突っ込まれるだろう。その言い訳は何とするつもりだ?」
隼が訊く。
「はい、それについては――実は俺も裏組織の人間で、香港とは別の国のマフィアだと打ち明けるのはどうでしょう。例えばここマカオのマフィアでもいいですし、ロシアとかシシリーなど何処でもいいんですが、そういった組織の上層部の人間だということにするんです。白龍とは裏社会の繋がりで知り合って恋人になったけれど、少し交際したら彼に飽きられて一方的に振られてしまった。俺はそれを恨んでいて、唐静雨さんと同じく報復の機会を狙っていたら、ひょんなことから今回の彼女たちの企てを知った――とするんです」
同じマフィア同士ならば、様々な情報が入手できたとしても怪しまれづらい。そうして唐静雨の心を揺さぶり、同志として受け入れてもらえればというのだ。上手くすれば彼女と二人で一緒に復讐しようという流れに持っていけるかも知れない。そうすれば周らが捕らわれている部屋に潜入することも可能だろうと冰は言った。
「……なるほど。作戦としては一理あるが、果たして唐静雨が信じるかが問題だな」
「それに――冰が一人で乗り込むのは危険が過ぎる」
僚一と隼がためらう横で、李が口を挟んだ。
「でしたら――冰さんのお付きとして私と、他にも数人が同行するというのは如何でしょう。冰さんはマフィア上層部の方ということなら、側近が付いていてもおかしくはないといえます」
確かにそうだ。冰一人では危険だが、武術に長けた者数人が側に付いていれば安心といえるだろうか――。
「――うむ。これは俺たちが危惧するまでもないと思うが、冰。それを実行するとなると、これまで以上に演技力との勝負になるぞ? お前はマフィアの上層部だ、威風堂々とした図々しい雰囲気を醸し出さなければならん」
隼はこれまでも冰の咄嗟の演技力の巧技を目の当たりにしている。その実力は充分に認めているものの、この人の好い青年が普段とは百八十度逆のふてぶてしい悪人を演じきれるかどうかが心配な様子だった。
「お父様、頼りないとは重々自覚しておりますが、何としても彼を助けたいんです! 演り切ってみせます!」
覚悟のある瞳がキラキラと意思の強さを讃えている。
「――分かった。では僚一たちの潜入と合わせて冰の作戦でいってみよう」
隼が了承すると、僚一が実践に向けて早速に手順を練り始めた。
「では、俺と紫月は予定通り裏手から潜入するとしよう。冰が表で連中を引き付けてくれている間なら潜入もしやすくなる。念の為、源さんは冰の側近として表から同行してくれ」
「かしこまりました!」
紫月が訊くと、冰はそうだと言ってうなずいた。
「あれからもうだいぶ時が経っています。その間に俺も白龍に愛想を尽かされて振られてしまったと言うんです。彼を恨んでいるので是非とも仲間に入れて欲しいと訴えて、白龍たちのいる部屋まで辿り着ければと思います」
「なるほど――。唐静雨の同情心をくすぐろうというわけか――。だが、今回の計画を冰がどうやって知ったのかというところは突っ込まれるだろう。その言い訳は何とするつもりだ?」
隼が訊く。
「はい、それについては――実は俺も裏組織の人間で、香港とは別の国のマフィアだと打ち明けるのはどうでしょう。例えばここマカオのマフィアでもいいですし、ロシアとかシシリーなど何処でもいいんですが、そういった組織の上層部の人間だということにするんです。白龍とは裏社会の繋がりで知り合って恋人になったけれど、少し交際したら彼に飽きられて一方的に振られてしまった。俺はそれを恨んでいて、唐静雨さんと同じく報復の機会を狙っていたら、ひょんなことから今回の彼女たちの企てを知った――とするんです」
同じマフィア同士ならば、様々な情報が入手できたとしても怪しまれづらい。そうして唐静雨の心を揺さぶり、同志として受け入れてもらえればというのだ。上手くすれば彼女と二人で一緒に復讐しようという流れに持っていけるかも知れない。そうすれば周らが捕らわれている部屋に潜入することも可能だろうと冰は言った。
「……なるほど。作戦としては一理あるが、果たして唐静雨が信じるかが問題だな」
「それに――冰が一人で乗り込むのは危険が過ぎる」
僚一と隼がためらう横で、李が口を挟んだ。
「でしたら――冰さんのお付きとして私と、他にも数人が同行するというのは如何でしょう。冰さんはマフィア上層部の方ということなら、側近が付いていてもおかしくはないといえます」
確かにそうだ。冰一人では危険だが、武術に長けた者数人が側に付いていれば安心といえるだろうか――。
「――うむ。これは俺たちが危惧するまでもないと思うが、冰。それを実行するとなると、これまで以上に演技力との勝負になるぞ? お前はマフィアの上層部だ、威風堂々とした図々しい雰囲気を醸し出さなければならん」
隼はこれまでも冰の咄嗟の演技力の巧技を目の当たりにしている。その実力は充分に認めているものの、この人の好い青年が普段とは百八十度逆のふてぶてしい悪人を演じきれるかどうかが心配な様子だった。
「お父様、頼りないとは重々自覚しておりますが、何としても彼を助けたいんです! 演り切ってみせます!」
覚悟のある瞳がキラキラと意思の強さを讃えている。
「――分かった。では僚一たちの潜入と合わせて冰の作戦でいってみよう」
隼が了承すると、僚一が実践に向けて早速に手順を練り始めた。
「では、俺と紫月は予定通り裏手から潜入するとしよう。冰が表で連中を引き付けてくれている間なら潜入もしやすくなる。念の為、源さんは冰の側近として表から同行してくれ」
「かしこまりました!」
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