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漆黒の記憶
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「よし、それじゃ冰。俺たちにもルーレットっていうのをやってみせてくれるか? 俺はな、テレビでは見たことがあるが本物のルーレットの台を見るのは初めてなんだ」
鐘崎がそう言うと、冰はまたもや周の方をチラリと見上げて、『やってもいい?』と尋ねるように小首を傾げた。
「いいぞ。俺も見せてもらいてえしな」
「うん! じゃあやってみるね! 上手くできるか分からないけどがんばる!」
周の許可がおりたと同時に嬉しそうに微笑んだ。
むろん鐘崎がルーレットを知らないというのは嘘だが、子供の意識でいる冰を思ってのことである。
「じゃあ始めるね。遼二君の好きな数字を教えてください」
ボールを持つ仕草などもどこそこ子供っぽい。鐘崎はそんな冰の一挙手一投足をそれとなく観察しながら明るい声で好きな数字を告げた。
「それじゃ黒の六番にするかな」
「黒の六番ね。じゃあ入りますー!」
話し方は幼さが垣間見えるが、いざボールを構えて盤に投げ入れる段階になると、その動きはまさにプロのそれへと変わる。流麗な手つきに真剣な目線、それらを何気なく目にとめながら鐘崎はボールの行方を待った。
「わ! すっげ! ホントにハマった!」
紫月が感嘆の声を上げる。ボールは見事狙った位置におさまり、見ていた三人からは拍手が起こった。
「すげえぞ、冰! 練習の成果大ありだな」
「いや、大したもんだ」
周と鐘崎からも絶賛されて、冰は照れ臭そうに頬を染めた。
その後、周と紫月からもリクエストを受けて、しばしルーレットを楽しんで過ごした。冰はことごとく狙った位置にボールをピタリとはめる神技を披露し、その出来栄えには本人も驚いている様子だった。
「僕、いつからこんなに上手くなったんだろう。いつもはなかなか思ったところにボールがはまらなくて、じいちゃんにもまだまだ練習が足りないって言われてるのに……。もしかしたら白龍のお兄さんが出してくれたこの台のお陰かなぁ」
自分の腕ではなく周が用意してくれた台のお陰だと言う。こういった謙虚な性質はこれまでとまったく変わらない。三人は安堵と共に変わらぬ彼を目の当たりにできてホッと胸を撫で下ろしたのだった。
その帰り道のことだ。鐘崎がハンドルを握りながらふとつぶやいた。今日は運転手付きではなく、鐘崎自らが運転して来たのだ。
「紫月、急なことですまねえが明日朝一番で香港へ飛ぼうと思う」
突飛な話にもかかわらず紫月はニッと口角を上げて嬉しそうに身を乗り出した。
「お! やっぱそうきたな!」
「何だ、分かっちまったか?」
「もちよ! 冰君が住んでたアパートの周辺で聞き込みするんだろ?」
当たりである。さすがは唯一無二の伴侶である。亭主の考えていることはお見通しなのだ。
鐘崎がそう言うと、冰はまたもや周の方をチラリと見上げて、『やってもいい?』と尋ねるように小首を傾げた。
「いいぞ。俺も見せてもらいてえしな」
「うん! じゃあやってみるね! 上手くできるか分からないけどがんばる!」
周の許可がおりたと同時に嬉しそうに微笑んだ。
むろん鐘崎がルーレットを知らないというのは嘘だが、子供の意識でいる冰を思ってのことである。
「じゃあ始めるね。遼二君の好きな数字を教えてください」
ボールを持つ仕草などもどこそこ子供っぽい。鐘崎はそんな冰の一挙手一投足をそれとなく観察しながら明るい声で好きな数字を告げた。
「それじゃ黒の六番にするかな」
「黒の六番ね。じゃあ入りますー!」
話し方は幼さが垣間見えるが、いざボールを構えて盤に投げ入れる段階になると、その動きはまさにプロのそれへと変わる。流麗な手つきに真剣な目線、それらを何気なく目にとめながら鐘崎はボールの行方を待った。
「わ! すっげ! ホントにハマった!」
紫月が感嘆の声を上げる。ボールは見事狙った位置におさまり、見ていた三人からは拍手が起こった。
「すげえぞ、冰! 練習の成果大ありだな」
「いや、大したもんだ」
周と鐘崎からも絶賛されて、冰は照れ臭そうに頬を染めた。
その後、周と紫月からもリクエストを受けて、しばしルーレットを楽しんで過ごした。冰はことごとく狙った位置にボールをピタリとはめる神技を披露し、その出来栄えには本人も驚いている様子だった。
「僕、いつからこんなに上手くなったんだろう。いつもはなかなか思ったところにボールがはまらなくて、じいちゃんにもまだまだ練習が足りないって言われてるのに……。もしかしたら白龍のお兄さんが出してくれたこの台のお陰かなぁ」
自分の腕ではなく周が用意してくれた台のお陰だと言う。こういった謙虚な性質はこれまでとまったく変わらない。三人は安堵と共に変わらぬ彼を目の当たりにできてホッと胸を撫で下ろしたのだった。
その帰り道のことだ。鐘崎がハンドルを握りながらふとつぶやいた。今日は運転手付きではなく、鐘崎自らが運転して来たのだ。
「紫月、急なことですまねえが明日朝一番で香港へ飛ぼうと思う」
突飛な話にもかかわらず紫月はニッと口角を上げて嬉しそうに身を乗り出した。
「お! やっぱそうきたな!」
「何だ、分かっちまったか?」
「もちよ! 冰君が住んでたアパートの周辺で聞き込みするんだろ?」
当たりである。さすがは唯一無二の伴侶である。亭主の考えていることはお見通しなのだ。
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