極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の記憶

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「氷川のヤツは手一杯だろうからな。幸い今はうちの親父も海外の仕事を終えて帰国している。組のことは親父と源さんに任せられるからな」
「オッケー! そんじゃ帰ったらすぐに支度する」
「さっきの冰の様子を見ていると記憶こそ飛んではいるが、ルーレットの腕前なんぞは衰えていない。おそらくは冰がガキの頃に黄のじいさんが何らかの形で危ねえ目に遭ったのは確かだろう。それと今回の真田氏の窮地が引き金となって記憶障害が起こったと見てほぼ間違いねえ。黄のじいさんを襲った事故がどんなものかが分かれば解決の糸口が掴めるんじゃねえかと思ってな」
「冰君たちが住んでたアパートはまだあるんだったよな?」
「そう聞いている。当時の様子を知っている人間がいれば何か手掛かりが見つかるかも知れねえ。親父とも相談するが、清水か橘――それに春日野あたりを貸してもらって出発することにしよう。飛行機は一般路線で十分だろう」
 プライベートジェットでもいいのだが、急を要する今回のような場合は一般路線の方が都合がいい。それに今は敵対組織に狙われているというようなこともないので極秘に積み込んでいく機器等も必要ないからだ。
「ガキんちょな冰君も可愛いが、やっぱり早く元に戻って欲しいもんな」
「ああ。特に氷川のことを思えば尚更だ。冰はあの通り氷川に絶対的な信頼を抱いているようだし、二人の仲が壊れるような心配はないにしろ、心がガキのままじゃ抱くこともできねえだろうしな」
「おいおい、そっちかよ」
「男にとっては死活問題だ。仮にお前がガキに戻っちまって何日も抱けねえなんてことを想像したら、俺だったら耐えられんからな。ガキの仕草は確かに可愛いが、その分愛しさも募るはずだ。氷川がその狭間で苦しまねえ内に記憶を取り戻してやりたい」
 鐘崎は前を見つめながらハンドルを握り、冷静な口調ではいるが、そこには友を思う熱い気持ちが垣間見える。紫月はそんな亭主を誇らしく思うのだった。

 そうして翌朝一番の飛行機で香港へと飛んだ鐘崎と紫月は、ひとまず黄老人と冰が住んでいたというアパートへと向かった。組からは清水と春日野も同行してくれたので、四人で大家を訪ねることにする。
 迎えてくれた大家はたいそう気のいい初老の婦人で、冰たちのことも覚えているとのことだった。
「ええ、ええ覚えておりますよ! 冰ちゃんね、あの子は本当にやさしい子だったわ。黄さんが亡くなる直前まで一生懸命お世話をしていてね。近所でも評判のいい子だったんですよ」
 ただ、婦人は冰が中学生くらいになった頃に親の代から大家を引き継いだとのことで、幼少の時分のことまでは詳しく知らないということだったので、四人は二手に分かれて近辺を聞き込んで歩くことにした。
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