極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
459 / 1,212
漆黒の記憶

20

しおりを挟む
 老夫婦の元を暇した帰り道、鐘崎は早速に汐留の周へと連絡を入れた。
 周は現地にまで飛んで経緯を突き止めてくれたことを非常に驚き、心からの感謝を述べた。
「そうか……。そんなことがあったのか」
 黄老人がカジノを引退したことは知っていたが、単に高齢によるものと認識していた周には衝撃的だったようだ。
「カネ、本当にすまない。まさか現地にまで行って突き止めてくれるとは……。一之宮はもちろん、組の大事な幹部や若い衆にまで労をかけてもらって礼の言葉もねえ」
「そんなことは気にするな。俺たちにとってお前と冰は家族も同然だ。動けるヤツが動くのは当たり前でお互い様のことだ」
 そう言ってくれる友に思わず涙腺がゆるむ。周は電話越しに人知れず熱くなった目頭を抑えたのだった。



◇    ◇    ◇



 その後、一週間ほどが過ぎ、冰も汐留での生活に馴染んできた様子だったが記憶の方は相変わらずである。周と共に朝食をとった後は昼まで邸でディーラーの技の練習などをしながら過ごしていた。午後から少し社長室へと顔を出し、コピーやお茶淹れといった簡単な仕事を手伝い、三時のティータイムが済むと邸に戻って真田と共に周の帰りを待つのが日課となっていった。
 黄老人を彷彿とさせるような雰囲気の真田にはよく懐いて、近頃では一緒に夕飯の支度などをするようになってもいた。調理場の者たちも子供に戻ってしまった冰を憐れに思いながらも、元来の素直でやさしい性質に更に輪をかけたような可愛らしさには心和む日々のようであった。
「ねえ真田さん、白龍のお兄さんは何が一番好きなのかなぁ。僕にもできる簡単なお料理があれば作ってあげたいんだ」
「おや、それは喜ばれるでしょうな! 焔の坊っちゃまはあまり好き嫌いはございませんが、水餃子をフカヒレのスープに浸した我が家独特のお料理が特にお気に入りのようですぞ。いつもスープまで残さずに全部飲んでくださいます」
「水餃子って難しいですか?」
「種をこねてしまえばさほどでもございません。包むのが少し難しいかも知れませんが、冰さんならば大丈夫でございますよ。坊っちゃまを想ってくださるそのお気持ちが何よりですのできっと上手にできるようになります。一緒にやってごらんになりますか?」
「はい! シェフさんたちに教えていただきながら上手にできるようにがんばります! 白龍のお兄さんにはいつも優しくしてもらってるから何か僕にできることをしたいんです」
「さようでございますか。坊っちゃまもお喜びでしょう。では本日のメニューは水餃子のスープをメインに致しましょうな」
「ありがとう真田さん! お兄さんに喜んでもらえるように、僕がんばります!」
 まるで祖父と孫のように仲睦まじく夕飯の支度に精を出す姿が本当に愛らしい。調理場の者たちも心癒される思いでそんな二人を見守るのだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...