極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
467 / 1,212
漆黒の記憶

28

しおりを挟む
「……先生は……お嫁さん……いるですか?」
 何ともぎこちない話し方で、語尾は日本語と広東語が混ざってしまっている。質問の内容も突飛といえる。鄧は驚きつつも何か記憶を揺さぶるような兆候かと思い、そのまま話を続けた。
「残念ながら先生にお嫁さんはまだいないな」
「……そ……ですか」
「まあボクもいい歳だからねぇ。そういったご縁があればとは思うんだけど、なかなかね。冰君は好きな子がいるのかい?」
「好きな子……」
 少し考え込みながら、すぐにブンブンと首を横に振ってみせた。
「あの……それじゃ白龍のお兄さん……は?」
「――周のお兄さんにお嫁さんがいるかってことかい?」
 コクリと遠慮がちにうなずいてみせる。
 事実を答えるならばイエスだが、そのお嫁さんは冰である。ここはいないと言うのが正解と鄧は思った。
 だがそんなことを訊くということは良い兆候といえる。聞きづらそうにしながらそれでも知りたいという意志が窺える。少なからず周に対する強い興味があるからこその質問なのだろう。
「周のお兄さんもボクと同じでまだ独身だ。お嫁さんはいないよ」
 すると冰は驚いたように瞳を見開いて、すがるような視線で見つめてきた。まるで一瞬の内に闇から抜け出せたというくらいに瞳を潤ませ、心を震わせている様が見て取れる。
「本当、先生?」
「ああ、本当さ」
「でもさっき……」
 言い掛けて冰はハッと口をつぐんでしまった。
「さっき……? どうかしたのかい?」
「ううん、何でもない……です」
 とはいえ何か考え込むような素振りでいるのは確かだ。鄧はそれ以上突っ込まずに、診察だけを終えると、「じゃあもう少しゆっくり横になっていなさい」と言ってやさしく微笑むに留めた。
 その後、診察の結果を報告がてら周の社長室へと向かった。
「鄧、すまなかったな。あれの具合はどんな様子だ」
「はい。お身体的には極めてご健康なご様子でした。特に心配する点は見当たりません。ただお気持ちの方が少々不安定でいらっしゃるかと思われます」
「何か心配事でもあるのか……。まあ、あいつもここでの生活に馴染んできたとはいえ、何かと気疲れしてるのかも知れんな。あいつの意識の中じゃ周りは皆大人だらけだからな。目上ばかりで本人も気づかねえ内に気を遣っているのかも知れん」
「というよりも、私の所見ですが……老板をお慕いするお気持ちが日に日に強くなられていて、そのお気持ちに戸惑っているようにお見受けできるのです。それに少々気になることをお尋ねになられまして」
「気になることだ?」
「ええ。老板にお嫁さんはいるのかとお訊きになられました」
 周は驚いた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

甘々彼氏

すずかけあおい
BL
15歳の年の差のせいか、敦朗さんは俺をやたら甘やかす。 攻めに甘やかされる受けの話です。 〔攻め〕敦朗(あつろう)34歳・社会人 〔受け〕多希(たき)19歳・大学一年

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...