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三千世界に極道の華
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一方、紫月らの方ではいよいよ本格的な披露目に向けての幕が上がろうとしていた。
「まずは花魁道中だ。この遊郭街でも一番の大きさを誇る我が茶屋にとびきりの男花魁が誕生したということを広く知らせねばならん。皆、用意はいいな?」
主人の男が意気揚々と張り切っている。
男花魁に抜擢された紫月の美麗さは目を見張るもので、それに付き添う下男の春日野と禿役の冰も倫周の手によってより一層艶やかに変身を遂げ、いざ道中が始まると道行く人々の目を釘付けにしていった。
最初の客は茶屋の主人の馴染みらしく、特に男色というわけではないらしいが、初披露目ということで祝儀がてら宴の席にだけ付き合ってくれるとのことだった。
その客は外の世界においても花街での遊び方を熟知している粋な男のようで、この裏吉原でもかなりの太客らしい。普段は対面の方の茶屋で遊女の花魁を相手に粋と酒だけを楽しみに度々やって来るそうだ。
なるほどスマートな遊び方で、色よりも琴や三味線、それに踊りといった芸の方に興味があるらしく、下品な話題なども口にしない。歌舞伎や寄席の知識も豊富で、着物もよく似合っているし、何より和服での所作が小慣れていて粋である。当然か、花魁との床を望むこともなく、歳の近い源次郎と寄席の小話やら千社札の由来などの話題で盛り上がり、多いに満足の様子だった。
紫月らにとってはある意味著しく想像を裏切られたといった印象で、驚かされる披露目の席となったわけである。
お開きの時間も程よいところでスッパリと綺麗に切り上げて、皆への心付けも忘れない。そうして初日が終わると、客は男衆に囲まれて飲むのもなかなかに楽しかったと言って満足そうに帰って行った。
「……なんか……思ってたのと全然違うっていうか……」
「本当に酒と会話だけを楽しんで帰られましたね」
紫月と春日野が思わずそんなことを口ずさむ。その傍らでは客の背中を見送りながら主人がポツリとつぶやいた。
「昔はな、ああして粋を心得たお人が集う場所だった。いつの頃か変わってしまったんだな」
その横顔は何かを懐かしむようでもあり、細められた視線が少し寂しそうに思えたのは錯覚か。馴染みを見送る主人の顔に初めて会った時の悪人の色は微塵もないように感じられる気がして、皆一様に何とも言いようのない不思議な思いにとらわれてしまったのは確かであった。
「今宵は初披露目だったからね。私の馴染みに無理を言って付き合ってもらったが、これからキミたちが相手にする客は皆が彼のように粋を心得ている者ばかりじゃない。どちらかと言えば真逆の客の方が多かろうよ。苦労はもちろんのこと、嫌な思いのひとつやふたつもあるかも知れんが……その分報酬は弾むつもりだ。頑張ってくれることを期待しているよ」
主人はそう言い残すと、今宵はご苦労だったと言って部屋を下がって行った。
「まずは花魁道中だ。この遊郭街でも一番の大きさを誇る我が茶屋にとびきりの男花魁が誕生したということを広く知らせねばならん。皆、用意はいいな?」
主人の男が意気揚々と張り切っている。
男花魁に抜擢された紫月の美麗さは目を見張るもので、それに付き添う下男の春日野と禿役の冰も倫周の手によってより一層艶やかに変身を遂げ、いざ道中が始まると道行く人々の目を釘付けにしていった。
最初の客は茶屋の主人の馴染みらしく、特に男色というわけではないらしいが、初披露目ということで祝儀がてら宴の席にだけ付き合ってくれるとのことだった。
その客は外の世界においても花街での遊び方を熟知している粋な男のようで、この裏吉原でもかなりの太客らしい。普段は対面の方の茶屋で遊女の花魁を相手に粋と酒だけを楽しみに度々やって来るそうだ。
なるほどスマートな遊び方で、色よりも琴や三味線、それに踊りといった芸の方に興味があるらしく、下品な話題なども口にしない。歌舞伎や寄席の知識も豊富で、着物もよく似合っているし、何より和服での所作が小慣れていて粋である。当然か、花魁との床を望むこともなく、歳の近い源次郎と寄席の小話やら千社札の由来などの話題で盛り上がり、多いに満足の様子だった。
紫月らにとってはある意味著しく想像を裏切られたといった印象で、驚かされる披露目の席となったわけである。
お開きの時間も程よいところでスッパリと綺麗に切り上げて、皆への心付けも忘れない。そうして初日が終わると、客は男衆に囲まれて飲むのもなかなかに楽しかったと言って満足そうに帰って行った。
「……なんか……思ってたのと全然違うっていうか……」
「本当に酒と会話だけを楽しんで帰られましたね」
紫月と春日野が思わずそんなことを口ずさむ。その傍らでは客の背中を見送りながら主人がポツリとつぶやいた。
「昔はな、ああして粋を心得たお人が集う場所だった。いつの頃か変わってしまったんだな」
その横顔は何かを懐かしむようでもあり、細められた視線が少し寂しそうに思えたのは錯覚か。馴染みを見送る主人の顔に初めて会った時の悪人の色は微塵もないように感じられる気がして、皆一様に何とも言いようのない不思議な思いにとらわれてしまったのは確かであった。
「今宵は初披露目だったからね。私の馴染みに無理を言って付き合ってもらったが、これからキミたちが相手にする客は皆が彼のように粋を心得ている者ばかりじゃない。どちらかと言えば真逆の客の方が多かろうよ。苦労はもちろんのこと、嫌な思いのひとつやふたつもあるかも知れんが……その分報酬は弾むつもりだ。頑張ってくれることを期待しているよ」
主人はそう言い残すと、今宵はご苦労だったと言って部屋を下がって行った。
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