極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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「いったいどうなってるんだかな……。あのオッサン……最初の時と随分イメージ違くねえか?」
「そうですね……」
 思うことは皆一緒のようだ。狐につままれたような顔で互いを見合わせるだけの皆を横目に、源次郎とレイが大人の見解を口にした。
「先程のお客さんはここのご主人の馴染みと言っていましたが……どう見ても悪い類のお人には見えませんでしたな。豊富な知識と花街での遊び方をよく心得ていらっしゃった。着物の着こなしや所作からして呉服屋か……あるいは普段から芸妓などを相手にする簪か扇子などを扱っている店のご主人といったところでしょうか。そんな印象を受けましたね」
「ああ。随分と粋な御仁だったのは確かだ。それにこの茶屋の主人だが……なんとなくこの商売に誇りを持っているようにも感じられた。最初に会った時は腹黒い悪党にも思えたがな。どちらが本当の姿なのか、まだはっきりとは分からねえが……もしかしたらこの裏吉原って所は俺たちの想像もつかねえ現実を抱えているのかも知れねえな」
 溜め息をつくレイを不思議そうに見やりながら息子の倫周が首を傾げてみせる。
「想像のつかない現実って?」
「それが何かは俺にも分からん。まだここへ来てほんの数日だ。あのオヤジが善人か悪党かは別として、ひとつ言えるのはこの商売に誇りを持っているのは嘘じゃねえんじゃねえかと思えることだ」
「誇り?」
「俺たちを一目見て仕事を割り振った時の的確な目利きといい、衣装合わせの時の張り切りようといい、金を稼ぐだけの目的でやっているようには思えねえ芯のようなものを感じる。それとは裏腹に、危ねえ用心棒風情の浪人を従えていたりと、どうにもチグハグに思えて仕方ねえ」
 確かにここで働くことを断ったら命はないぞとばかりに脅されたのも事実である。
「何か事情があるのかも知れんが、とにかくもうしばらくは様子を見るしかねえだろうな。あのオヤジも言っていたが、今後俺たちが相手にする客はタチの悪い輩も増えてきそうだ。それこそ男娼を抱く事が目当ての客も来るだろう。最初の予定通り、冰の博打でなるべく花魁には近付けねえようにして全員一丸となって紫月を守ることに専念しよう」
「それしかありませんな。あとは博打で負けた客が暴れ出すことも想定して、春日野君と私で警護の方も手厚くする必要がありますな」
 それと同時に少しずつこの世界の成り立ちや事情についても探る必要があるだろう。周と鐘崎へのコンタクトの機会を窺うことも忘れてはならない。皆は改めて明日からの行動に気構えを新たにするのだった。
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