極道恋事情

一園木蓮

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三千世界に極道の華

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 橘は先日の夜に敵方参謀の男の後をつけたので地の利にはある程度明るい。時間的には昼間であるが、地下空間の為にここでは常に昼も夜もない。まだ茶屋が開く時間帯ではないので、店先の灯りも乏しい。闇に紛れて動くには幸いといえた。
「話には聞いていたが酷え場所だな……。三浦屋がある辺りとはまるで雰囲気が違う」
 一目で治安の悪さを感じさせる街並みに周が眉根を寄せる。
「こないだの晩にヤツが消えたのはあの祠の裏ですが……」
 やたらに近付くのはさすがに警戒せざるを得ない。橘が辺りに注意を払っているその時だった。
「おい、橘! あれを見ろ!」
 突如、周に腕を掴まれて振り返ると、彼が驚いた表情で目を見張っていた先にとんでもない光景が広がっていて、橘も一瞬開いた口が塞がらないといった状態でその場に硬直させられてしまった。
「……わ、若……ッ!? 何だってこんな所に……」
 なんとそこには路地裏の垣根の隙間から覗ける庭先の縁側に腰掛けている鐘崎の姿があったからだ。
「やはり拐われてきたのは本当のようだな」
「けど若ほどのお人が素直にああしてあそこに居続けるってのはおかしくありませんか? 姐さんはまだ起きられない状態だって聞きましたが、見たところ若はもう意識が戻っていらっしゃるようなのに」
 だが、よくよく見ればぼんやりとしていて、いつもの鐘崎のような覇気がない。縁側に腰掛けたきり、ぼうっと一点を見つめたような眼差しで、あれでは腑抜け同然だ。
「カネのヤツもまだ薬が切れてねえのかも知れん。とにかく庭に入り込んでもう少し様子を窺うぞ。敵の姿が見当たらねえようなら即刻連れ帰る!」
「承知しました!」
 そうしてなんとか庭へと潜り込んだものの、声を掛けようと思った矢先だ。部屋の襖が開き、奥から数人が会話する声が聞こえてきて二人はひとまず植木の陰へと身を潜めた。現れたのはどうやら敵方の連中のようである。
「何をもさもさやっていやがる! 早えとここいつを飲ませてあの傷野郎をモノにしねえか!」
 ガラの悪い男が数人で一人の女の腕を引っ張りながら小言を言っている。
「うるさいねぇ! ちょいと離しておくれよ!」
 女は着ている着物からして遊女のようだ。気の強そうな美人で、怯まず男たちに言い返している。
「仕方ないだろう。あの男はあんたらが盛ったおかしな薬のせいで腑抜け同然さ! アタイがいくら話し掛けたってウンともスンとも言わないんだからさぁ。いったいあの薬は何なんだい?」
「は! おめえにゃ関係ねえこったが、教えてやらねえこともねえ。聞いて驚くな! ありゃあなぁ、頭を狂わせちまうって危ねえ代物さ」
 男が得意顔で笑う。
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