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三千世界に極道の華
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辺りを見渡したが幸い見張りなどはいないようだ。
「よし、今だ! カネを担いで逃げるぞ!」
周と橘が急いで鐘崎の元へと駆け寄った時だった。突如縁側の襖が開いて一人の男が姿を現したのに驚かされる羽目となった。
「……ッ!? 僚一……!」
「親父っさん!」
なんと男は鐘崎の父親の僚一だったのだ。
彼は「しッ……!」と指先で唇を覆い、声を立てるなという合図を送ってよこした。そして今一度周囲を見渡した後で誰もいないことを確かめると、二人を連れて庭先の植樹の陰へと身を隠した。
「僚一! 来てたのか!」
周は普段は僚一のことを『親父さん』と呼ぶが、仕事絡みか或いはこういった緊急時には即座に同胞としての『僚一』という呼び方に変わる。いわばオンの精神状態の場合は自然とそうなるのだが、今もまさにそれであった。僚一の方もよく分かっていて、息子同然の年齢であろうが対一人のパートナーとしての意識で受け入れている。同じ裏の世界に生きる者同士の阿吽の呼吸というわけだ。
「まさかもうこの地下施設に潜り込んでいたとはな。海外だと言っていたから、もう少し遅れるものとばかり思っていた」
周が言えば、僚一も「ああ」と苦笑した。
「ここに着いたのはつい昨夜のことだ。お前さんたちの茶屋に顔を出す前に少し下調べをしておこうと思ってな。丹羽のところの修司坊からおおよその見取り図をもらっていたんで、まずは敵がヤサにしているというこの辺りを調べて回っていたんだが――」
ちょうどその時に息子である鐘崎が敵に担ぎ込まれて来るのを見掛けて、急遽この邸の天井裏へと潜んで様子を探っていたのだという。
「どうやらヤツらは遼二を仲間に引き入れるつもりでいるらしい。敵に回すと厄介になると見込んで、それならといっそ囲い込んじまった方がいいと考えたようだ」
「若を仲間にですかい?」
「お前ら、遼二が武器商人だという噂を流したろうが。ヤツらはそれを聞きつけて、何かの役に立つと踏んだようだぞ」
「……! た、確かにそういう噂をでっち上げたのは本当ですが……。まさかこんなことになるとは……」
「まあ、理由はそれだけってわけでもないようだがな。どうも腕の方も達つと見込まれちまったらしい」
「そりゃまあ……若は見た目からしてめちゃくちゃ強そうっつか、オーラというか威厳がありますから。敵が仲間にしたがるのもある意味納得ですが……。けど、だからって本気で拉致ってくるだなんて……ンなの、後々上手くいくわけねえでしょうに!」
橘が呆れつつも憤りを露わにする。
「その為にさっきの女を充てがって骨抜きにするつもりのようだ」
「……! それで催淫剤ですかい。汚ねえ手を考えやがる!」
「本人の意思がどうあれ、あれを食らって誘惑されたんじゃ敵の思うツボだからな」
「それで天井裏から徳利ごとひっくり返したってわけか。どういう手を使ったんだか」
今度は周が感心しつつも苦笑している。
「なに、ちょいとコレでな。引っ掛けたまでだ」
僚一は小さな重りのついたテグスをポケットから取り出しては笑った。
「例え消音だろうと実弾や矢が出るのはまずいからな」
「よし、今だ! カネを担いで逃げるぞ!」
周と橘が急いで鐘崎の元へと駆け寄った時だった。突如縁側の襖が開いて一人の男が姿を現したのに驚かされる羽目となった。
「……ッ!? 僚一……!」
「親父っさん!」
なんと男は鐘崎の父親の僚一だったのだ。
彼は「しッ……!」と指先で唇を覆い、声を立てるなという合図を送ってよこした。そして今一度周囲を見渡した後で誰もいないことを確かめると、二人を連れて庭先の植樹の陰へと身を隠した。
「僚一! 来てたのか!」
周は普段は僚一のことを『親父さん』と呼ぶが、仕事絡みか或いはこういった緊急時には即座に同胞としての『僚一』という呼び方に変わる。いわばオンの精神状態の場合は自然とそうなるのだが、今もまさにそれであった。僚一の方もよく分かっていて、息子同然の年齢であろうが対一人のパートナーとしての意識で受け入れている。同じ裏の世界に生きる者同士の阿吽の呼吸というわけだ。
「まさかもうこの地下施設に潜り込んでいたとはな。海外だと言っていたから、もう少し遅れるものとばかり思っていた」
周が言えば、僚一も「ああ」と苦笑した。
「ここに着いたのはつい昨夜のことだ。お前さんたちの茶屋に顔を出す前に少し下調べをしておこうと思ってな。丹羽のところの修司坊からおおよその見取り図をもらっていたんで、まずは敵がヤサにしているというこの辺りを調べて回っていたんだが――」
ちょうどその時に息子である鐘崎が敵に担ぎ込まれて来るのを見掛けて、急遽この邸の天井裏へと潜んで様子を探っていたのだという。
「どうやらヤツらは遼二を仲間に引き入れるつもりでいるらしい。敵に回すと厄介になると見込んで、それならといっそ囲い込んじまった方がいいと考えたようだ」
「若を仲間にですかい?」
「お前ら、遼二が武器商人だという噂を流したろうが。ヤツらはそれを聞きつけて、何かの役に立つと踏んだようだぞ」
「……! た、確かにそういう噂をでっち上げたのは本当ですが……。まさかこんなことになるとは……」
「まあ、理由はそれだけってわけでもないようだがな。どうも腕の方も達つと見込まれちまったらしい」
「そりゃまあ……若は見た目からしてめちゃくちゃ強そうっつか、オーラというか威厳がありますから。敵が仲間にしたがるのもある意味納得ですが……。けど、だからって本気で拉致ってくるだなんて……ンなの、後々上手くいくわけねえでしょうに!」
橘が呆れつつも憤りを露わにする。
「その為にさっきの女を充てがって骨抜きにするつもりのようだ」
「……! それで催淫剤ですかい。汚ねえ手を考えやがる!」
「本人の意思がどうあれ、あれを食らって誘惑されたんじゃ敵の思うツボだからな」
「それで天井裏から徳利ごとひっくり返したってわけか。どういう手を使ったんだか」
今度は周が感心しつつも苦笑している。
「なに、ちょいとコレでな。引っ掛けたまでだ」
僚一は小さな重りのついたテグスをポケットから取り出しては笑った。
「例え消音だろうと実弾や矢が出るのはまずいからな」
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