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三千世界に極道の華
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「なんて見事な彫り物なんだ……」
「ありゃあ本物の刺青かい?」
「まさか!」
「本物のわけがあるかい! あんな若い男だぞ……本物だとすりゃ堅気じゃねえってことかい?」
「馬鹿野郎……今時の若いモンらの流行りだろ? タトゥか何かの貼り物に決まってらぁな」
逞しい肩に咲く見事なほどの大輪の紅椿の刺青が群衆の目を釘付けにする。それらを後押しするようにレイが今一度煽りの言葉を口にした。
「おいおい、やってくれるじゃねえか青二才が! どこで手に入れて来たか知らんが、そいつぁ貼り物の化粧か何かかい? よくできた代物だが、そんなもんでこの紅椿の気を引こうなんざ小細工もいいところだぁな! ガキが頭を捻ったまでは認めてやらねえでもねえが、その程度の小細工で威嚇しようったってそうは問屋が卸さねえぜ? こいつぁ……花魁紅椿は俺のもんだ。とっとと失せやがれ!」
鐘崎の肩を思い切り手で押しこくって花魁を抱き締めんとした時だった。
「ふ――ありがとうよ、兄さん。だが渡すわけにゃいかねえ。こいつぁ俺が生涯をかけて愛し抜くと心に決めた唯一無二の宝だからよ」
今の今まで死んだ魚のように濁っていた瞳がみるみる内に生き生きとした輝きを取り戻していく。
真一文字だった口角がゆるりと弧を描き、自信のみなぎる笑みが戻ってくる。
沿道のそこかしこに灯された灯籠の灯が黒曜石のような瞳に反射してキラキラと煌めきを増してゆく。
その様子を食い入るように見つめていた源次郎や春日野、周や冰ら仲間たちの間にも歓喜の感情があふれ返った。
(若! 思い出されたのですな! おめでとうございます! よく頑張られた……! 若を導かれたレイさんと姐さんもさすがです!)
「……野郎……帰って来やがった。見ろ、あのギラギラとした生きた目だ。紛れもなくヤツはカネだ!」
感動に声を震わせた周がガッシリと冰の肩を抱き寄せながら目頭を熱くしている。
「鐘崎さん……良かった……! お帰りなさい!」
冰もまた潤み出した涙をくしゃくしゃの笑顔に滲ませながら歓喜に浸ったのだった。
それとは反対側の沿道にいた蓉子もまた安堵の思いに胸を撫で下ろすと共に、感極まった胸の内が涙となって色白の頬を濡らしていた。
(良かった……! 思い出せたんだね! よく頑張ったわ。偉いよ、あんた!)
胸前で手を合わせて感激の思いにあふれ出た涙を拭う。三浦屋の二階からその様子を見守っていた倫周や飛燕、綾乃木らも互いに抱き合いながら興奮の思いに浸ったのだった。
と、その直後だった。遠くの方からドヤドヤと群衆を掻き分けて来る一団が大声でがなり立てながら近付いて来るのが分かった。見物客らは突き飛ばされて方々から悲鳴が上がる。鐘崎と蓉子がいなくなったことに気付いた敵方が血相を変えて捜しにやって来たのだ。
「いやがったぞ! あそこだ!」
「こんの……傷野郎! てめえ、まだその男花魁に執着していやがったか!」
「しゃらくせえ! 構うこたぁねえ! 全員まとめてぶった斬ってやる!」
腰に差していた真剣を抜いて一斉に斬りかからんと襲い来る。それに気付いた飛燕が三浦屋の二階から鐘崎と紫月に向かって一振りの日本刀を投げてよこした。
「受け取れ、遼二坊!」
「ありゃあ本物の刺青かい?」
「まさか!」
「本物のわけがあるかい! あんな若い男だぞ……本物だとすりゃ堅気じゃねえってことかい?」
「馬鹿野郎……今時の若いモンらの流行りだろ? タトゥか何かの貼り物に決まってらぁな」
逞しい肩に咲く見事なほどの大輪の紅椿の刺青が群衆の目を釘付けにする。それらを後押しするようにレイが今一度煽りの言葉を口にした。
「おいおい、やってくれるじゃねえか青二才が! どこで手に入れて来たか知らんが、そいつぁ貼り物の化粧か何かかい? よくできた代物だが、そんなもんでこの紅椿の気を引こうなんざ小細工もいいところだぁな! ガキが頭を捻ったまでは認めてやらねえでもねえが、その程度の小細工で威嚇しようったってそうは問屋が卸さねえぜ? こいつぁ……花魁紅椿は俺のもんだ。とっとと失せやがれ!」
鐘崎の肩を思い切り手で押しこくって花魁を抱き締めんとした時だった。
「ふ――ありがとうよ、兄さん。だが渡すわけにゃいかねえ。こいつぁ俺が生涯をかけて愛し抜くと心に決めた唯一無二の宝だからよ」
今の今まで死んだ魚のように濁っていた瞳がみるみる内に生き生きとした輝きを取り戻していく。
真一文字だった口角がゆるりと弧を描き、自信のみなぎる笑みが戻ってくる。
沿道のそこかしこに灯された灯籠の灯が黒曜石のような瞳に反射してキラキラと煌めきを増してゆく。
その様子を食い入るように見つめていた源次郎や春日野、周や冰ら仲間たちの間にも歓喜の感情があふれ返った。
(若! 思い出されたのですな! おめでとうございます! よく頑張られた……! 若を導かれたレイさんと姐さんもさすがです!)
「……野郎……帰って来やがった。見ろ、あのギラギラとした生きた目だ。紛れもなくヤツはカネだ!」
感動に声を震わせた周がガッシリと冰の肩を抱き寄せながら目頭を熱くしている。
「鐘崎さん……良かった……! お帰りなさい!」
冰もまた潤み出した涙をくしゃくしゃの笑顔に滲ませながら歓喜に浸ったのだった。
それとは反対側の沿道にいた蓉子もまた安堵の思いに胸を撫で下ろすと共に、感極まった胸の内が涙となって色白の頬を濡らしていた。
(良かった……! 思い出せたんだね! よく頑張ったわ。偉いよ、あんた!)
胸前で手を合わせて感激の思いにあふれ出た涙を拭う。三浦屋の二階からその様子を見守っていた倫周や飛燕、綾乃木らも互いに抱き合いながら興奮の思いに浸ったのだった。
と、その直後だった。遠くの方からドヤドヤと群衆を掻き分けて来る一団が大声でがなり立てながら近付いて来るのが分かった。見物客らは突き飛ばされて方々から悲鳴が上がる。鐘崎と蓉子がいなくなったことに気付いた敵方が血相を変えて捜しにやって来たのだ。
「いやがったぞ! あそこだ!」
「こんの……傷野郎! てめえ、まだその男花魁に執着していやがったか!」
「しゃらくせえ! 構うこたぁねえ! 全員まとめてぶった斬ってやる!」
腰に差していた真剣を抜いて一斉に斬りかからんと襲い来る。それに気付いた飛燕が三浦屋の二階から鐘崎と紫月に向かって一振りの日本刀を投げてよこした。
「受け取れ、遼二坊!」
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