極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
576 / 1,212
蛙の子はカエル

しおりを挟む
「飛燕。――おい、飛燕居ねえのか?」
 鐘崎組の長である僚一が一之宮道場を訪ねると、普段は賑わっているはずの稽古場に人の気配が全くなかった。頃はまだ息子たちが高校生の時分で、ソメイヨシノが咲き始めようかという季節のことだ。
 勝手知ったる何とやらで生活スペースの母屋にも上がって見て回ったが、そこに飛燕はおろか道場を手伝っているはずの綾乃木の姿も見当たらない。
「買い物にでも出掛けたのか……」
 諦めて出直そうとすると、裏庭の方から人の話し声が聞こえてきて歩をとめた。
「なんだ、居るんじゃねえか」
 道場を突っ切って庭を覗こうとしたその時だ。この家の主人である飛燕が何やらこっそりと物陰に身を潜めながら怪しげな様子でいる。
「おい飛燕! 何やってんだ」
 声を掛けると、驚いたようにこちらを振り返ると同時に、「しーッ!」と人差し指で唇を塞いでみせた。
「――何してんだ。庭に何かいるのか?」
 まさか泥棒でも入ったのかと思いつつ、忍び足で飛燕のところまで行くと、彼の視線の先に息子たち二人と彼らの親友である周焔が三人で何かに取り組んでいる姿が飛び込んできた。
「なんだ、ガキ共じゃねえか。あいつら三人で何やってんだ?」
 僚一が訊くと飛燕は楽しげに口角を上げてみせた。
「坊主共がな、こないだっからああして新しい技を編み出そうと頑張っていやがるのさ」
「新しい技だ? 三人でか?」
「それがなかなかにいい目のつけどころというかな。発想は素晴らしいんだが、どうも思うようにいかねえようでな。こないだっから再三稽古を積んでいるようなんだが」
「どら? いったいどんな技を考え出したんだ、ヤツらは」
 僚一も一緒になって身を潜めながら裏庭の息子たちを観察する。どうやら紫月が他の二人の背を踏み台にして高く飛び上がり、重力を味方につけて上から刀を振り下ろすという形を編み出したいようだ。随分前からトライしているのだろう、息を上げながら三人が庭のあちこちに散らばっている。
「行くぞ!」
「おう」
「来い、紫月!」
 紫月が庭の端からダッシュし始めると同時に周と鐘崎が地面にしゃがみ込んで肩を差し出す。それを土台にして飛び上がるのだが、思ったように高さが出ないようだ。途中でバランスを崩しては地面に転げ落ち、そのまま大の字でひっくり返ってしまった。
「ぐはぁ……まーたダメかよ。全然届かねえじゃん」
 庭にある一等高い木からぶら下げた古新聞の束を叩き落とすことが出来れば成功のようだが、かなり高い位置にある為にかすりもしない様子である。もう幾度もトライしているのだろう、花冷えのこの季節だというのに三人は汗だくでバテ気味だ。三者三様、悔しそうに頭を抱えている。
「やっぱ高すぎるんじゃねえのか? もうちょい低い位置に結び直すか」
「けど、それじゃ意味ねえし!」
「今日はもうこんくらいでやめにするべ。腹減ってきた」
「あー、チックショウ……! 何で上手くいかねえかなぁ。つか、二人共、肩大丈夫か?」
 紫月が踏み台にした二人の肩を気に掛けている。
「肩は大丈夫だが、おめえの方がしんどいだろうが」
 ダッシュして飛び上がる紫月の役割が一番消耗するだろうからと鐘崎が気遣っている。
「俺らの中じゃ一之宮が一番軽いからな。ポジションを変えるのはムリがあるだろうし」
 周も上手くいかない理由が分からずに頭をひねっている。
 そんな様子を見ていた僚一がクスッと笑んでみせた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...