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孤高のマフィア
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「へえ、あの氷川さんが……。まあとびきりのイイ男だからモテるだろうとは思ったけど、まさか両刀だったとは驚きだわ」
愛莉はドポドポと香山のグラスに酒を継ぎ足しながら心底驚いたといった調子でいる。
「そう言われてみれば……あの人がお店に来る時に若い男の子が一緒だったこともあったわね。確か秘書だとかって聞いたような気がするけど」
愛莉は銀座の高級クラブには不似合いという印象だったと言って、その若い男のことを思い巡らせていた。
「氷川さんが来る時はたいがい彼の友達の鐘崎さんも一緒だったし、割と大人数で来てたわね。どっちも青年実業家って雰囲気だったし、それぞれのお付きっていうか秘書とかを連れてるんだろうなって思ってたから気にも留めなかったけど」
銀座に生きる女性たちの中には周や鐘崎が同性の伴侶を持っていることを知っている者も多い。周はともかくとしても鐘崎が極道組の若頭だということも知っている者は知っているといった具合だ。だが、愛莉は銀座に勤めて日が浅かったこともあり、そういった詳しい事情までは把握していなかったようだ。しかも半年足らずで故郷へ戻ってしまった為に、周らのことは青年実業家という認識しか持っていなかったのだ。
一方、香山の方は秘書と聞いて自分が見た男でほぼ間違いないのだろうと確信していた。
「なあ、その若いガキだが……どんな様子だったか詳しく思い出せないか?」
「どんなって言われても……アタシはあの人たちのテーブルに呼ばれたことはないし、いつも必ずママが自ら係に付いてたからなぁ。こういったクラブに来るにしては子供っぽいなっていうか、まあ彼単体で見れば確かにイケメンだったとは思うけど、氷川さんや鐘崎さんの中に混じっちゃうと幼いなぁって印象しかなかったしね。正直ホステスに囲まれる絵を想像すると浮いてるなっていうくらいしか覚えてないけど」
「どんなことでもいいんだ! 店で氷川さんがどんな様子だったかとか、誰か気に入ったホステスはいたのかとか……何でもいいから聞かせてくれないか?」
香山のあまりに必死な様子に、愛莉は少々引きつつも当時のことを思い浮かべた。
「そうねぇ、アタシ的には氷川さんのお目当てはママかもって思ったことはあったわね。だって毎回必ずママがテーブルに付くし、お店で仕入れてる果物とかお酒も氷川さんの商社が卸してる老舗店と契約してるって聞いたことがあるわ。ママと二人きりでVIP専用のプライベートルームにこもってたこともあったわよ。だからてっきりデキてるのかもって思ってたわ」
まあこういう世界だから二人共本気じゃないにしろ、遊びと割り切って単に寝るだけの仲なのだろうと思っていたのだという。まさかあの氷川社長が男まで相手にしていたとは信じられないという印象の方が強いと、愛莉も驚き顔だった。
彼女の話に香山はどこかでホッとすると共に、ママとデキていたかも知れないなどと聞かされれば、それはそれでまた別の嫉妬心に駆られそうになっていた。
「その……ママっていうのは美人なのか?」
「里恵子ママ? そりゃあ銀座でオーナーママををしているくらいだもの! 見た目はもちろんめちゃくちゃ綺麗だし、政治経済の話とかにも詳しかったようよ。まあ場所が銀座だし、政治家とかも来るからいろいろ勉強してたんじゃないかしら。アタシみたいな上京組からすれば雲の上っていうかさ、まさにプロって感じだったわね」
まあそれが堅苦しくて辞めたっていうのもあるけどねと言って愛莉は笑った。
「けど、ママにはちゃんとイイ人がいたし、どっちかっていったら氷川さんの方がママにご執心なのかと思ってたけどねぇ」
煙草をふかしながら暢気に笑う愛莉を横目に、香山の脳裏には自分が恋心を寄せていた男が美しいママを抱く映像が浮かんできて、行き場のない気持ちで頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだった。
愛莉はドポドポと香山のグラスに酒を継ぎ足しながら心底驚いたといった調子でいる。
「そう言われてみれば……あの人がお店に来る時に若い男の子が一緒だったこともあったわね。確か秘書だとかって聞いたような気がするけど」
愛莉は銀座の高級クラブには不似合いという印象だったと言って、その若い男のことを思い巡らせていた。
「氷川さんが来る時はたいがい彼の友達の鐘崎さんも一緒だったし、割と大人数で来てたわね。どっちも青年実業家って雰囲気だったし、それぞれのお付きっていうか秘書とかを連れてるんだろうなって思ってたから気にも留めなかったけど」
銀座に生きる女性たちの中には周や鐘崎が同性の伴侶を持っていることを知っている者も多い。周はともかくとしても鐘崎が極道組の若頭だということも知っている者は知っているといった具合だ。だが、愛莉は銀座に勤めて日が浅かったこともあり、そういった詳しい事情までは把握していなかったようだ。しかも半年足らずで故郷へ戻ってしまった為に、周らのことは青年実業家という認識しか持っていなかったのだ。
一方、香山の方は秘書と聞いて自分が見た男でほぼ間違いないのだろうと確信していた。
「なあ、その若いガキだが……どんな様子だったか詳しく思い出せないか?」
「どんなって言われても……アタシはあの人たちのテーブルに呼ばれたことはないし、いつも必ずママが自ら係に付いてたからなぁ。こういったクラブに来るにしては子供っぽいなっていうか、まあ彼単体で見れば確かにイケメンだったとは思うけど、氷川さんや鐘崎さんの中に混じっちゃうと幼いなぁって印象しかなかったしね。正直ホステスに囲まれる絵を想像すると浮いてるなっていうくらいしか覚えてないけど」
「どんなことでもいいんだ! 店で氷川さんがどんな様子だったかとか、誰か気に入ったホステスはいたのかとか……何でもいいから聞かせてくれないか?」
香山のあまりに必死な様子に、愛莉は少々引きつつも当時のことを思い浮かべた。
「そうねぇ、アタシ的には氷川さんのお目当てはママかもって思ったことはあったわね。だって毎回必ずママがテーブルに付くし、お店で仕入れてる果物とかお酒も氷川さんの商社が卸してる老舗店と契約してるって聞いたことがあるわ。ママと二人きりでVIP専用のプライベートルームにこもってたこともあったわよ。だからてっきりデキてるのかもって思ってたわ」
まあこういう世界だから二人共本気じゃないにしろ、遊びと割り切って単に寝るだけの仲なのだろうと思っていたのだという。まさかあの氷川社長が男まで相手にしていたとは信じられないという印象の方が強いと、愛莉も驚き顔だった。
彼女の話に香山はどこかでホッとすると共に、ママとデキていたかも知れないなどと聞かされれば、それはそれでまた別の嫉妬心に駆られそうになっていた。
「その……ママっていうのは美人なのか?」
「里恵子ママ? そりゃあ銀座でオーナーママををしているくらいだもの! 見た目はもちろんめちゃくちゃ綺麗だし、政治経済の話とかにも詳しかったようよ。まあ場所が銀座だし、政治家とかも来るからいろいろ勉強してたんじゃないかしら。アタシみたいな上京組からすれば雲の上っていうかさ、まさにプロって感じだったわね」
まあそれが堅苦しくて辞めたっていうのもあるけどねと言って愛莉は笑った。
「けど、ママにはちゃんとイイ人がいたし、どっちかっていったら氷川さんの方がママにご執心なのかと思ってたけどねぇ」
煙草をふかしながら暢気に笑う愛莉を横目に、香山の脳裏には自分が恋心を寄せていた男が美しいママを抱く映像が浮かんできて、行き場のない気持ちで頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだった。
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