極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
590 / 1,212
孤高のマフィア

13

しおりを挟む
「へえ、あの氷川さんが……。まあとびきりのイイ男だからモテるだろうとは思ったけど、まさか両刀だったとは驚きだわ」
 愛莉はドポドポと香山のグラスに酒を継ぎ足しながら心底驚いたといった調子でいる。
「そう言われてみれば……あの人がお店に来る時に若い男の子が一緒だったこともあったわね。確か秘書だとかって聞いたような気がするけど」
 愛莉は銀座の高級クラブには不似合いという印象だったと言って、その若い男のことを思い巡らせていた。
「氷川さんが来る時はたいがい彼の友達の鐘崎さんも一緒だったし、割と大人数で来てたわね。どっちも青年実業家って雰囲気だったし、それぞれのお付きっていうか秘書とかを連れてるんだろうなって思ってたから気にも留めなかったけど」
 銀座に生きる女性たちの中には周や鐘崎が同性の伴侶を持っていることを知っている者も多い。周はともかくとしても鐘崎が極道組の若頭だということも知っている者は知っているといった具合だ。だが、愛莉は銀座に勤めて日が浅かったこともあり、そういった詳しい事情までは把握していなかったようだ。しかも半年足らずで故郷へ戻ってしまった為に、周らのことは青年実業家という認識しか持っていなかったのだ。
 一方、香山の方は秘書と聞いて自分が見た男でほぼ間違いないのだろうと確信していた。
「なあ、その若いガキだが……どんな様子だったか詳しく思い出せないか?」
「どんなって言われても……アタシはあの人たちのテーブルに呼ばれたことはないし、いつも必ずママが自ら係に付いてたからなぁ。こういったクラブに来るにしては子供っぽいなっていうか、まあ彼単体で見れば確かにイケメンだったとは思うけど、氷川さんや鐘崎さんの中に混じっちゃうと幼いなぁって印象しかなかったしね。正直ホステスに囲まれる絵を想像すると浮いてるなっていうくらいしか覚えてないけど」
「どんなことでもいいんだ! 店で氷川さんがどんな様子だったかとか、誰か気に入ったホステスはいたのかとか……何でもいいから聞かせてくれないか?」
 香山のあまりに必死な様子に、愛莉は少々引きつつも当時のことを思い浮かべた。
「そうねぇ、アタシ的には氷川さんのお目当てはママかもって思ったことはあったわね。だって毎回必ずママがテーブルに付くし、お店で仕入れてる果物とかお酒も氷川さんの商社が卸してる老舗店と契約してるって聞いたことがあるわ。ママと二人きりでVIP専用のプライベートルームにこもってたこともあったわよ。だからてっきりデキてるのかもって思ってたわ」
 まあこういう世界だから二人共本気じゃないにしろ、遊びと割り切って単に寝るだけの仲なのだろうと思っていたのだという。まさかあの氷川社長が男まで相手にしていたとは信じられないという印象の方が強いと、愛莉も驚き顔だった。
 彼女の話に香山はどこかでホッとすると共に、ママとデキていたかも知れないなどと聞かされれば、それはそれでまた別の嫉妬心に駆られそうになっていた。
「その……ママっていうのは美人なのか?」
「里恵子ママ? そりゃあ銀座でオーナーママををしているくらいだもの! 見た目はもちろんめちゃくちゃ綺麗だし、政治経済の話とかにも詳しかったようよ。まあ場所が銀座だし、政治家とかも来るからいろいろ勉強してたんじゃないかしら。アタシみたいな上京組からすれば雲の上っていうかさ、まさにプロって感じだったわね」
 まあそれが堅苦しくて辞めたっていうのもあるけどねと言って愛莉は笑った。
「けど、ママにはちゃんとイイ人がいたし、どっちかっていったら氷川さんの方がママにご執心なのかと思ってたけどねぇ」
 煙草をふかしながら暢気に笑う愛莉を横目に、香山の脳裏には自分が恋心を寄せていた男が美しいママを抱く映像が浮かんできて、行き場のない気持ちで頭の中はぐちゃぐちゃになりそうだった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...