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孤高のマフィア
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それを聞いた途端に女はハタと真剣な顔付きへと表情を変えた。
「……氷川さん……ですって?」
それまでは適当に聞き流していたものの、俄然興味をそそられたようにして身を乗り出す。女にとっても聞き覚えのある名前だったからだ。
「ねーえ、香山ちゃん。あなた確か前に東京の商社に勤めてたんだったわよね? 何ていう名前の会社だったの?」
「ああー? そんなこと訊いてどーするんだよ」
「あら、いいじゃない。教えてくれたって減るモンじゃなし!」
「ま、どーでもいっか。俺が勤めてたのはアイス・カンパニーってところ! あの頃もそれなりにデカい会社だったけど、今じゃ都内の一等地にバカでかい自社ビルをブッ建てるほどに成長した一流企業さ。マジで辞めるんじゃなかった……」
「やっぱり……!」
女は独りごちると香山に身をすり寄せるようにしながら耳元で囁いた。
「あなたの好きだった男性って氷川白夜のこと?」
女が放ったフルネームにドキりと胸が高鳴る。
「……まさかアンタ……氷川社長を知ってんのか?」
いっぺんで酔いが吹き飛んだように、今度は香山の方が大きく瞳を見開いてしまった。
「アタシね、ちょっと前まで銀座のクラブに勤めてたのよ。っていってもほんの数ヶ月だったけどね。アイス・カンパニーの氷川白夜って社長ならたまに店に来てたから、もしかして同一人物かもって思って」
「それ……本当なのか?」
「ええ、もちろん。けど、あの人確か奥さんがいたはずだけど」
「……奥さんって、じゃあ社長は結婚してるっていうのか!?」
「そう聞いてるわ。でもその奥さんと上手くいってないらしくて、別居してるとかなんとかって噂も耳にしてたわね」
「詳しく教えてくれ!」
思いも掛けなかった話向きに、香山はすぐさま食らい付いた。なんと女は佐々木里恵子がママをしているクラブ・フォレストにいた愛莉というホステスだったのだ。冰が記憶喪失に陥った時期に氷川こと周に直談判して関係を迫ったことのある例の女だ。周から門前払いを食らったことを機に里恵子の店を辞めて、生まれ故郷である博多に舞い戻っていたのだ。
あまりの偶然に香山と愛莉は驚いたように互いを見つめ合ってしまった。
「本当に……あの人が結婚してるっていうなら……それはそれで諦めがつくってもんだ。でも……だったら俺が見たあのガキはいったい何だっていうんだ。やけに社長と親そうにしてたし、それにスマホにはお揃いのストラップまで付けてた……。てっきり社長とイイ仲なのかと思ったが」
「そのガキってどんな子なの? 一概に男っていっても、いろいろタイプとかあるじゃない。マッチョな感じとか可愛い系とか」
「ふん! 確かに顔の作りは整ってたが、一から十まで社長に世話を焼かせてるって印象でイケ好かないヤツだったぜ!」
「ふぅん? じゃ、可愛い系かぁ。まあ氷川さんにマッチョな彼ってのも想像つかないわよね。厳ついタイプならボディガードってことも有り得そうだけど可愛い系なら違うかぁ。正直信じられないけど……。それマジでホントなの?」
「ああ、ホントのホントさ! もしもアンタの言うように奥さんと上手くいってないっていうなら、あのガキが原因かも知れない……」
真剣な様子の香山に愛莉もますます興味をそそられたようだ。
「……氷川さん……ですって?」
それまでは適当に聞き流していたものの、俄然興味をそそられたようにして身を乗り出す。女にとっても聞き覚えのある名前だったからだ。
「ねーえ、香山ちゃん。あなた確か前に東京の商社に勤めてたんだったわよね? 何ていう名前の会社だったの?」
「ああー? そんなこと訊いてどーするんだよ」
「あら、いいじゃない。教えてくれたって減るモンじゃなし!」
「ま、どーでもいっか。俺が勤めてたのはアイス・カンパニーってところ! あの頃もそれなりにデカい会社だったけど、今じゃ都内の一等地にバカでかい自社ビルをブッ建てるほどに成長した一流企業さ。マジで辞めるんじゃなかった……」
「やっぱり……!」
女は独りごちると香山に身をすり寄せるようにしながら耳元で囁いた。
「あなたの好きだった男性って氷川白夜のこと?」
女が放ったフルネームにドキりと胸が高鳴る。
「……まさかアンタ……氷川社長を知ってんのか?」
いっぺんで酔いが吹き飛んだように、今度は香山の方が大きく瞳を見開いてしまった。
「アタシね、ちょっと前まで銀座のクラブに勤めてたのよ。っていってもほんの数ヶ月だったけどね。アイス・カンパニーの氷川白夜って社長ならたまに店に来てたから、もしかして同一人物かもって思って」
「それ……本当なのか?」
「ええ、もちろん。けど、あの人確か奥さんがいたはずだけど」
「……奥さんって、じゃあ社長は結婚してるっていうのか!?」
「そう聞いてるわ。でもその奥さんと上手くいってないらしくて、別居してるとかなんとかって噂も耳にしてたわね」
「詳しく教えてくれ!」
思いも掛けなかった話向きに、香山はすぐさま食らい付いた。なんと女は佐々木里恵子がママをしているクラブ・フォレストにいた愛莉というホステスだったのだ。冰が記憶喪失に陥った時期に氷川こと周に直談判して関係を迫ったことのある例の女だ。周から門前払いを食らったことを機に里恵子の店を辞めて、生まれ故郷である博多に舞い戻っていたのだ。
あまりの偶然に香山と愛莉は驚いたように互いを見つめ合ってしまった。
「本当に……あの人が結婚してるっていうなら……それはそれで諦めがつくってもんだ。でも……だったら俺が見たあのガキはいったい何だっていうんだ。やけに社長と親そうにしてたし、それにスマホにはお揃いのストラップまで付けてた……。てっきり社長とイイ仲なのかと思ったが」
「そのガキってどんな子なの? 一概に男っていっても、いろいろタイプとかあるじゃない。マッチョな感じとか可愛い系とか」
「ふん! 確かに顔の作りは整ってたが、一から十まで社長に世話を焼かせてるって印象でイケ好かないヤツだったぜ!」
「ふぅん? じゃ、可愛い系かぁ。まあ氷川さんにマッチョな彼ってのも想像つかないわよね。厳ついタイプならボディガードってことも有り得そうだけど可愛い系なら違うかぁ。正直信じられないけど……。それマジでホントなの?」
「ああ、ホントのホントさ! もしもアンタの言うように奥さんと上手くいってないっていうなら、あのガキが原因かも知れない……」
真剣な様子の香山に愛莉もますます興味をそそられたようだ。
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