極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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「いやぁ、悪ィね! こんなむさ苦しい所に連れ込んじまって! 気が付いたんならこっち来いよ! もうちょいマトモな部屋へ案内するからよ」
 男は馴れ馴れしい感じでニタニタと笑う。
「あなたは……どなたですか? 俺たちにどんな御用です?」
 冰が訊くと、男は関心したように肩をすくめてみせた。
「こいつぁまた! 何とも品のいい! ってよりもめちゃくちゃ男前の兄さんじゃねえの。昨夜はこっちもテンパってたんでよく分からなかったが、とんだ上玉だ」
 どうやら危害を加える様子は見られないようだ。冰はもう少し突っ込んで理由を訊ねることにした。
「お目に掛かるのは初めてですよね? よろしければご用件をうかがいたいのですが……」
「ご用件――ねぇ。正直俺にとっちゃあんたらにゃ何の用もねえっつーかさ。ま、言ってみりゃこっちも商売ってところでね。恨みはねえが依頼者のご要望だ」
「依頼者……ですか。それはどのような方なんでしょう」
「どのような方って言われてもな。一応金をもらって頼まれてる仕事だからね。依頼者の素性を教えるわけにもいかねえわけよ」
 そこんトコ分かってくれる? とばかりに冷笑する。つまり、この男は誰かに頼まれて金で拉致を請け負っただけということか。
「そうですか……。ご事情は分かりました。それで俺たちはこれからどうされるというわけですか?」
 冰が落ち着いた調子でいることを不思議に思ったのか、はたまた感心したのか知れないが、男は大したもんだとばかりに呆れ半分で肩をすくめてみせた。
「あんた、若えのに随分と肝っ玉が据わってんのな? 正直あの情けねえ専務とはツキとスッポンって感じだわなぁ。あんたにゃつくづく同情させられるっつーかさ、いくら仕事でもこんなマトモな兄さんをハメるのは申し訳ねえ気になってくらぁ」
 男が口を滑らせた”専務”という言葉から、拉致を依頼した黒幕はどこかの会社の専務なのだろうと推測される。だが、ここは深く突っ込まずに聞かなかったふりをしてサラリと受け流すことにした。
 おそらくこの男は思慮深いタイプではないのだろう。口を滑らせたことを指摘するよりも、上手く調子を合わせていればその内にもっといろいろなことを喋くってくれるかも知れない。そこのところの判断は冰の手腕といえた。
 男の方も冰の臆せず、かといって小馬鹿にするでもなく、怯えるでもない態度に興味を抱いた様子だ。こちらの知りたい情報をペラペラと喋り出してくれた。
「こう見えて俺はここいら界隈では顔が利く方でね。ここは大陸に近いこともあって異国のマフィア連中とも繋がりがあるわけだ。あんたらにゃ悪いが、そいつらに売り渡そうって寸法さ!」
「売り渡す……俺たちをですか? それが依頼者という方のご意向ということでしょうか」
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