極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
603 / 1,212
孤高のマフィア

26

しおりを挟む
「……やられてしまったようですね。白龍がくれた腕時計が見当たりません」
「腕時計?」
「ええ。俺に何かあった時の為にって白龍が持たせてくれているものです。GPSが入れてあって現在地が分かるようになっているんですが……」
「それが盗られちゃったっていうこと?」
「そのようです。財布とスマートフォンも見当たりませんが……ある意味当然といったところでしょうか。まさかとは思いますけど腕時計の機能にまで気付いて取り上げたとなると、相手は素人ではないかも知れませんね」
 冰は裏社会という点では素人同然だが、周と暮らすようになってからは様々な事件に遭遇してもいる。本人も無意識の内に、ある程度どんなことが起こっても冷静に事態を受け止めることが身に付いてしまっているようだ。
「あら……そういえばアタシの時計も……指輪やイヤリングもないわ……。それに帯留めも……!」
 里恵子が身を弄りながら驚きの声を上げる。
「周さんと鐘崎さんに戴いたキーリングも見当たらない!」
 ということは貴金属の類が根こそぎ持っていかれたということか。冰は更なる事態を冷静に分析していた。
「目的が換金だとすればGPSに気付いて潰された可能性は低いでしょうか。拉致の目的はお金……か。それとも……」
 念の為、里恵子に拉致されるような心当たりがないか訊ねるもすぐには思い当たらないという。
「瑛二も一応組を構えている立場だから、もしかしたら瑛二の関係かも知れないけれど」
 だが、拉致に遭った順番から考えると里恵子よりも冰の方が先である。森崎や里恵子が目的ならば、順番としては逆になるはずだ。
「巻き込まれたのは里恵子ママさんの方で、犯人の目的は俺、もしくは周の可能性が高いかも知れません。昨夜、化粧室にママさんが来てくれたのは俺の様子を見てくれる為だったわけですよね?」
「ええ……。周さんが心配そうにしていらしたから、それならアタシが行って見てきてあげるわっていう話になって」
「だとすれば目的は俺か周で間違いないでしょう。身代金が目的であれば既に犯人から周に連絡がいっているはずです」
 それならばしばらくは待機しかなかろうか。
「このビールケース……メーカーは有名な日本製ですね。ということはこの場所はまだ国内の可能性が高い。犯人は海外絡みではないということか……」
 冰はこれまでも二度ほど拉致に遭ったが、いずれも香港やマカオなどへ連れ去られるという事案だった。だが、今監禁されているこの場所はどうやら空の上という感じではなさそうである。揺れもなければ飛行機特有の騒音もしない。というよりも微かに聞こえてくる横断歩道の信号音からして日本であることは間違いなさそうだ。
「時計が盗られた上に窓も無し……か。あれからどのくらい時間が経ったのかも分からないけど、今回は海外の可能性は低い……。とすればやっぱり白龍が目当ての人質なのか……」
 冰が考え込んでいると、遠くの方から誰かがやって来る物音が聞こえてきて、二人は咄嗟に身構えた。
「ママさん、俺の後ろへ!」
 冰は里恵子を自分の背に隠すようにして固唾を呑む。扉が開くといかにもチンピラといった雰囲気の男が顔を出して、暢気に笑いながら話し掛けてきたのに驚かされるハメとなった。
「よう、お二人さん! 気が付いてたのか! おっはようさんー!」
 なりはチンピラだが恨みつらみといったような敵意は感じられない。話している言語も日本語だ。拉致犯というにしてはそぐわないほどの親しげな素振りだが、それに加えて男からはこちらを気遣うような言葉が飛び出して、ますます驚かされることとなった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...