極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
617 / 1,212
孤高のマフィア

40

しおりを挟む
 するとディーラーは薄く笑みながらカードを三枚滑らせて男の前へと差し出した。
 開いたカードを見るなりさっきまで焦れていた男の目つきがパッと明るさを取り戻す。交換した三枚によってなかなかにいい目が揃ったからである。男が手にしたカードは絵札のスリーカード、ここはポーカーのテーブルだったのだ。
 男は今度こそもらったと言わんばかりに意気揚々と勝負に出ようと身を乗り出した。だが冰はまたしても男の肩に手を置くと、それを止めにかかった。
[降りてください。そのままでは相手の思う壺ですよ]
 男は正面を向いたまま冗談じゃないというオーラを滲み出してみせたが、冰はますます圧をかけるようにグイと肩先に指を食い込ませると、『この勝負は降りろ』と合図を送ってみせた。
[あなたは感情を顔に出し過ぎです。とにかく降りなさい。早く!]
 仕方なく男が降りると、ディーラーはわずか不機嫌そうに眉根を寄せた。つまり、そのまま勝負に出ていれば確実に負けたという証拠である。
 男にしてみればワケが分からず驚き顔のまま次のターンが始まると、冰は引き続き広東語で『とりあえず一枚要求しろ』と男に告げた。
 すると今度は先程とは比べ物にもならないワンペアという目が揃う。残念そうに肩を落とす男の様子を見て、冰はやれやれと溜め息をつきたい気分にさせられてしまった。こうもあからさまに態度に出されては、ディーラーはもちろんのこと同じテーブルに着いている客たちの目にも男が持っている駒が透けて見えてしまうからだ。だが、それならば逆手に取ればいい。冰はまたしても驚くようなことを口にしてみせた。
[勝負に出ましょう。あなたが今持っている全てのチップでレイズしてください。できれば自信満々ではなくクサクサした態度でやっていただけると尚いい]
 レイズとは他の客たちよりも上回る金額で勝負に出ろという意味だ。だがカードは単なるワンペアである。
 それこそ冗談じゃないと男がいきり立つ雰囲気が感じられたが、冰は肩に置いた指先を更に食い込ませて言われた通りにしろと圧をかける。
[いいですか? 全てのチップですよ。ケチればあなたが損をするだけです]
[……ッ! アンタいったい……]
[早くなさい。周りに気付かれたら終いです]
[……チッ……! クソ……ッ]
 男が言われるまま半分自暴自棄のような形で全額を投じ勝負に出ると、なんと結果は彼の大勝ちとなり一気にテーブルが湧いた。今まで負け越した分を取り返したどころか、お釣りがわんさと転がり込んでくる快挙だ。散々負け越していた男にとっては一攫千金にも等しい奇跡である。
[嘘だろ……まさかこんなワンペアなんかで……]
 感極まった男が背後を振り返ると、もうそこに冰の姿はなかった。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...