619 / 1,212
孤高のマフィア
42
しおりを挟む
「や、えっと……これ、まさか兄さんがカジノで……?」
「ええ。ああいったお店は初めてでしたが、とても楽しかったです」
「は……楽しかったってアンタね……。場慣れした奴らでも一晩でこんだけ稼ぐなんざ奇跡っつーかさ……」
まるで化け物でも見るような目で閉口している男に、冰はまるで場にそぐわない朗らかな笑顔を携えながら、
「きっとビギナーズラックというやつでしょう。俺もこのお札の束を手にした時はビックリしました。ですが、どうせ俺たちはこの後異国のマフィアさんに売り飛ばされてしまうわけですから。持っていても仕方ありませんし……というよりも身の丈に合わない大枚なんて怖いだけですから」
だからどうぞ収めてくださいという冰の笑顔に、男の方が空恐ろしいというような顔付きをしてみせた。
「あんた……いったい何者だ……」
恐る恐るといった調子で机の上に積まれた札束と冰とを交互に見やる。
「何者だなんて、そんな大した者ではありませんよ。それに、元々はあなたのお店からいただいてきたお金ですし、俺は楽しく遊ばせてもらえただけで充分です。お陰でいい思い出ができました」
「そ、そうかい……。そりゃ良かった」
「ところで俺たちが売られる先というのはもう決まったのでしょうか?」
「い、いや……まだだが」
「そうですか。ではひょっとして明日の夜ももう一度くらいは遊ばせてもらえるのかな」
あまりにもあっけらかんと言い放つ様子に、男の方が後退り気味だ。
「あ、ああ……。あんたらが希望すんなら明日も遊んでくれて構わねえが……」
男はそう言いながらも、これはもしかすると売り飛ばすよりも金になるのではと思い始めたようだ。本当にただの奇跡的なビギナーズラックなのか、はたまた物凄い金の卵なのか、それを見極める為にももうしばらく様子を見るのも悪くない。視線を泳がせる彼の顔つきからはそんな感情がうごめいているのが見てとれる。案の定、男は冰と里恵子をすぐに売り飛ばすことはやめて、もう少し様子を見ることにシフトチェンジしたようであった。
「な、なんだったら明日と言わずもう二、三日遊んでってくれても構わねえけどさ……」
「そうですか! いやぁ、嬉しいですね。ではこの中から明日のチップ代だけ拝借してもよろしいですか? なにせものすごく楽しかったものですから、すっかり病みつきになりそうでして」
「は、はは……。そう……そいつぁ良かった。チップは兄さんが好きなだけ換金してくれて構わねえぜ……」
「そうですか。ありがとうございます」
冰はにこやかに微笑むと、楽しみだと言って嬉しそうな顔をしてみせた。
その夜、冰たちをホテルに送り届けた男は、その足ですぐさま年ごろにしている愛莉のマンションへと向かった。彼女の顔を見るなり懐から札束を取り出して興奮気味に声を上ずらせる。
「おい、見ろよ! 俺らが掻っ攫ってきた例のガキだが、ありゃあとんでもねえ金の卵かも知れねえぞ! ちょいとカジノで遊ばせてやったら一晩でこんなに稼ぎやがった!」
男が札を扇型に広げては部屋の中で気がふれたように小躍りしてみせる。愛莉も驚きに絶句状態だ。
「ええ。ああいったお店は初めてでしたが、とても楽しかったです」
「は……楽しかったってアンタね……。場慣れした奴らでも一晩でこんだけ稼ぐなんざ奇跡っつーかさ……」
まるで化け物でも見るような目で閉口している男に、冰はまるで場にそぐわない朗らかな笑顔を携えながら、
「きっとビギナーズラックというやつでしょう。俺もこのお札の束を手にした時はビックリしました。ですが、どうせ俺たちはこの後異国のマフィアさんに売り飛ばされてしまうわけですから。持っていても仕方ありませんし……というよりも身の丈に合わない大枚なんて怖いだけですから」
だからどうぞ収めてくださいという冰の笑顔に、男の方が空恐ろしいというような顔付きをしてみせた。
「あんた……いったい何者だ……」
恐る恐るといった調子で机の上に積まれた札束と冰とを交互に見やる。
「何者だなんて、そんな大した者ではありませんよ。それに、元々はあなたのお店からいただいてきたお金ですし、俺は楽しく遊ばせてもらえただけで充分です。お陰でいい思い出ができました」
「そ、そうかい……。そりゃ良かった」
「ところで俺たちが売られる先というのはもう決まったのでしょうか?」
「い、いや……まだだが」
「そうですか。ではひょっとして明日の夜ももう一度くらいは遊ばせてもらえるのかな」
あまりにもあっけらかんと言い放つ様子に、男の方が後退り気味だ。
「あ、ああ……。あんたらが希望すんなら明日も遊んでくれて構わねえが……」
男はそう言いながらも、これはもしかすると売り飛ばすよりも金になるのではと思い始めたようだ。本当にただの奇跡的なビギナーズラックなのか、はたまた物凄い金の卵なのか、それを見極める為にももうしばらく様子を見るのも悪くない。視線を泳がせる彼の顔つきからはそんな感情がうごめいているのが見てとれる。案の定、男は冰と里恵子をすぐに売り飛ばすことはやめて、もう少し様子を見ることにシフトチェンジしたようであった。
「な、なんだったら明日と言わずもう二、三日遊んでってくれても構わねえけどさ……」
「そうですか! いやぁ、嬉しいですね。ではこの中から明日のチップ代だけ拝借してもよろしいですか? なにせものすごく楽しかったものですから、すっかり病みつきになりそうでして」
「は、はは……。そう……そいつぁ良かった。チップは兄さんが好きなだけ換金してくれて構わねえぜ……」
「そうですか。ありがとうございます」
冰はにこやかに微笑むと、楽しみだと言って嬉しそうな顔をしてみせた。
その夜、冰たちをホテルに送り届けた男は、その足ですぐさま年ごろにしている愛莉のマンションへと向かった。彼女の顔を見るなり懐から札束を取り出して興奮気味に声を上ずらせる。
「おい、見ろよ! 俺らが掻っ攫ってきた例のガキだが、ありゃあとんでもねえ金の卵かも知れねえぞ! ちょいとカジノで遊ばせてやったら一晩でこんなに稼ぎやがった!」
男が札を扇型に広げては部屋の中で気がふれたように小躍りしてみせる。愛莉も驚きに絶句状態だ。
22
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる