極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
622 / 1,212
孤高のマフィア

45

しおりを挟む
 そうして冰はテーブルに着くと、昨夜とは打って変わったふてぶてしい態度で堂々と脚を組んでみせた。さすがに闇というだけあってか、通常通る受付などはなく、席が空いてさえいれば自由に参加が可能なようだが、やはり最初が肝心である。常連ならば、客の間でも『ああ、こいつか』というように暗黙の着席ルールのようなものがあるようだが、冰は顔すら知られていない新参者だ。おまけに年も若い。お門違いだと舐められてはならないし、それには周囲がいったい何者だと思うくらいの圧を伴ったオーラが必要不可欠なのだ。
 選んだのはカードゲームの卓――昨夜は香港から来たと思われる見知らぬ男の窮地を手助けしてやったポーカーのテーブルである。一大勝負に出るならここしかないと踏んだ。
 他にもお得意のルーレットをはじめダイスゲームなどのテーブルもあったが、そのどれもが磁気などを使ったイカサマが仕掛けられていて、客の立場からは覆すのが難しいと思われるからだ。ディーラーとしてならともかく、ボールなどに直接触れられない今の状況では、目視だけでディーラーの技と意図を読み解けるカードしかないとの判断であった。
 まず、テーブルに着いた際のオーラだけで周囲が自ずと席を譲って避けるような雰囲気を醸し出すところから始める。里恵子にはそんな自分の肩に腕を回してもらうように頼み、ともすれば年若い生意気な優男が美女をはべらすというビジュアル的にも目を引く仕草でギャラリーの視線を釘付けにするという作戦でいく。
「こんばんは。お邪魔させていただきますよ」
 冰が来た時は席がまだ二つほど空いていて、ゲームの途中であった。それらが一段落するまで黙って勝負の行方を見守るとする。昨夜とはまた別の顔ぶれではあったが、今宵もディーラーが客の中の一人と組んでイカサマが行われているのは間違いないようであった。
 ターンが終わると冰は相変わらずにふてぶてしい態度のままでこう言い放った。
「ふぅん、今時のカードゲームって難しいんですねぇ。皆さんのされているのを拝見していましたがさっぱり分からないや。せっかくカジノなんていう映画みたいな世界に来られたというのに、これでは僕などお門違いじゃあないですか。つまらないなぁ……。もっと簡単なのはやってもらえないのかな。できれば……そう、ディーラーさんとサシで勝負させてもらえると有り難いんだけどな」
 いきなりの図々しい物言いに、ディーラーはもちろんのこと同じテーブルにいた客やギャラリーたちの鋭い視線が一気に冰へと向けられる。青二才が何を生意気にと敵意剥き出しで睨み付けてくる者もいるし、はたまた面白いとばかりにニヤけて身を乗り出してくる者もいる。
 名指しされたディーラーも一瞬勘に障ったようだが、そこは腐ってもディーラーのプライドがあるのだろう。すぐに『おもしろいことをおっしゃいますね』と快諾を口にした。彼の表情から察するに『小生意気なクソガキが! コテンパンに叩きのめしてやる』と言わんばかりなのが窺える。薄く笑んだ口元からは余裕とは裏腹に小馬鹿にされた怒りの感情の方が滲み出ているとも受け取れた。
 冰はふと目をやった先に隣にいた客が吸っていたと思われるシガレットケースに気が付いて、にこやか且つスマートな仕草でそれをねだった。
「失礼。一本ごちそうになっても?」
 つまり煙草を一本恵んでくれないかと聞いたわけだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

処理中です...