極道恋事情

一園木蓮

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孤高のマフィア

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 隣の客もすぐにその意に気付いてか、ケースから煙草を差し出すと、軽い会釈と共にそれを口に銜えた冰に自らのジッポライターで火を点すところまでサービスしてくれた。この時点で既に冰の得体の知れないオーラに呑み込まれているといった証拠といえる。
「ありがとう」
 冰は美味そうに深く一服を吸い込むと、咥え煙草の仕草のままで立ち上る紫煙を煙たそうにしながら瞳を細めては大量のチップをディーラーの目の前へと積み上げてみせた。
「ご厚意に感謝しますよ。それでは始めましょうか」
 チラリと上目遣いでディーラーを見やる。紫煙を挟んで見つめられた一瞬の視線の中にゾッとするほどの鋭い輝きを感じてか、ディーラーはビクりと武者震いに襲われたようであった。
「お客さん、見慣れないお方ですね。随分と自信がお有りのようだが……この店は初めてで?」
 まがりなりにもここは勝負の壇上だ、どう転んでも恨みっこなしに願いますよと言わんばかりにディーラーが威嚇の態度を見せる。
「ええ、まあ。僕はこの土地の者ではないので。たまたまさる御方のご厚意でご招待いただいたのですよ」
 ”招待”という言い回しにディーラーの方も一瞬眉根を寄せる。それというのも、ここに出入りするにはそれなりの伝手が必要だからだ。
 見た目は小生意気な素人に見えるが、態度は堂々とし過ぎているし、あまり邪険にしても後々まずいことになるやもしれないとの懸念からか、ディーラーも態度を決めかねているようだ。そんな心の揺れをいち早く読み取った冰は更なる図々しい物言いで畳み掛けてみせた。
「それよりも僕の我が侭で貴重なお時間をいただくわけですからね。他の皆さんのお邪魔にならない為にも勝負は今されていたやつじゃなく、オーソドックスな……何といったかな。ファイブカードでしたっけ。五枚のカードで遊ぶやつ。それでお相手いただくというのでは如何でしょう」
 その提案に、さすがのディーラーも眉を吊り上げた。
「ドローポーカーだと? お客さん、ここはカジノですぜ? 子供のお遊びとは違うんだ」
 一般的にはカジノでポーカーといえばテキサス・ホールデムというポーカーの中でも代表的な種のやり方で進められていることが多い。ここのカジノもまさにそれで行われていた。
 たった今冰が言ったドローポーカーというのは幾種もあるポーカーの中でも一番簡単なやり方で、それこそ初心者が家族友人と楽しむような遊び方である。まがりなりにも一対一でディーラーを独占しようという時にそんな申し出をすれば小馬鹿にしていると思われても仕方がない。
 だが、テーブルには相変わらずイカサマの片棒を担ぐ相方が居座っている以上、いくら一対一といっても目配せなどで邪魔をされるのはご免被りたいところだ。それには互いに手の内を見せないままで勝負に持ち込めるファイブカードでの対戦が望ましい。と同時に、周囲のギャラリーに対しても一目瞭然でこのディーラーのイカサマを暴露するにはそれくらいが分かりやすくて都合がいいのだ。
 だがまあ、元々破天荒すぎる申し出に対してディーラーの首を縦に振らせるには横柄で自信満々な態度と共に言葉巧みに追い込んでいくしかない。冰は相も変わらず空っとぼけた態度のままで、ふてぶてしく紫煙を燻らせてみせた。
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